第89話 紅VS綾香 手合わせ
上空に出現した数字がゼロになった瞬間、綾香が姿勢を低くして突撃してくる。
蓮見は落ち着いて綾香の攻撃を見ながら、矢を番えて放つ。
が、全て躱されてしまい数秒で綾香の攻撃範囲に入ってしまう。
美紀の言葉を思い出しながら、二本の剣の通り道を見て躱すのではなく予測して躱しながら距離を取る。途中何度か掠りはしたものの大したダメージにはならなかった。
「スキル『迷いの霧』!」
綾香の視界を潰す為、毒の霧に姿を暗ませて様子を見る事にする。
警戒しているのか綾香が動く事を止める。
「スキル『烈風』!」
蓮見が不意打ちで心臓を狙いKillヒットをする為狙いを定めた瞬間、綾香を中心に風が吹き上げられて一瞬で毒の霧が消える。そのまま間髪入れずに近づき連撃を決めてくる綾香。
流石は暫定三位の実力者である。
素人でもわかるぐらいに綾香のPS(プレイヤースキル)は里美と同じく高かった。
感心していると、蓮見の動きを見極めたのか更に攻撃速度が上がる。
HPゲージをどんどん削ってくる。
――これが強者の力なのか?
ワクワクするな。
「もう終わりかな? スキル『連撃』!」
綾香の双剣が青いエフェクトを放つ。
態勢を崩された蓮見に躱す手立てはない。
このままでは美紀の連撃と同じく七連撃が蓮見の身体を切り刻む事になる。
だけど蓮見は笑っていた。
「スキル『烈風』!」
今度は蓮見を中心として周囲の風が巻き上げられ綾香の攻撃を強制的に解除して身体を吹き飛ばす。流石に自分のスキルが使われた事に驚いているのか綾香の表情から笑みが消える。スキル投影を使う事で何とか攻撃を回避し、距離を取れた蓮見が今度は攻撃に移る。
「スキル『連続射撃3』『虚像の矢』!」
赤いエフェクトを放ちながら五本の矢が勢いよく綾香に向かって飛んでいく。
綾香はそれを避けるわけでもなく、逆に飛んでくる矢に向かって走り、五本の矢が作った僅かな隙間を利用して躱した。
予期せぬ事態に蓮見は慌てて、後ろにジャンプして距離を稼ぎながら攻撃する。
「スキル『加速』!」
綾香のAGIが1.5倍に上がり、動きが速くなる。
蓮見の攻撃を次々と躱して距離を詰めてくる綾香に対して蓮見も弓から短剣に武器を切り替える。
そして。
「スキル『加速』!」
再び綾香のスキルを投影した蓮見は【鏡面の短剣】を複製し両手に持ち対抗する。
「嘘でしょ。投影ってそんなに強いの!?」
少なからずスキルの連続複製に綾香は驚いていた。
雄たけびを上げ、全神経を集中して蓮見は綾香と剣を打ち合う。
何度も剣と剣がぶつかり合い火花を散らす。
「だけど、甘いよ紅!」
「わかってますよ。綾香さんの本気はこの程度ではないことくらい」
「フフッ。紅?」
「はい?」
「見たい? 私の本気の一部を?」
「えぇ」
二人は真剣勝負をしながら話していた。
常にお互いの攻撃レンジにいる以上油断は出来ない。
だけど、この状況を楽しまないと言う選択肢は二人の中になかった。
「なら付いておいで。とは言ってもこれで終わりになりそうだけど。双剣専用スキルは流石に投影出来でしょ。スキル『パワーアタック』『幻影の舞』!」
『幻影の舞』は美紀の『破滅のボルグ』と同じくスキル入手条件がかなり厳しく強力な双剣専用スキルである。スキルの効果は高速二十二連撃による斬撃。そのうち十一連撃は偽物の幻影の攻撃で本物は十一連撃だけである。威力はやはり上位スキルと言うべきか折り紙付きである。
――マズい!?
身体がそう思った時、蓮見の頭が閃く。
今の俺は剣、双剣、槍、弓、魔法まで扱えるのだと。
「甘いですよ綾香さん。スキル『幻影の舞』!」
双剣専用スキルではあるが、双剣を装備していれば投影は可能である。後はシステムが勝手に補正して身体を動かしてくれるのだから。
【鏡面の短剣】と複製スキルと投影スキルを持っている蓮見だから出来る荒業である。それだけではない。ホークアイの効果で幻影の斬撃は全てクリティカルヒット出来る場所に丸が出現する。それを的確に弾き返し、逆に綾香の実際の剣での攻撃は残像で対処していく。頭でイメージすればシステムアシストが働く。
両者の二十二連撃がぶつかり合う。
だが蓮見の持っていた短剣は途中でボロボロに崩れ、スキルが途中で解除されてしまった。そのまま後は、綾香の連撃が身体を切り裂き、HPゲージが半分を切り負けてしまった。
結果は綾香の勝ちで勝負が終わると、膝を付く蓮見の元に綾香が来て手を差し伸べてくれる。蓮見は綾香の手を取り立ち上がると闘技場全体から拍手が送られてきた。
「お疲れ様。おかげで楽しかったよ」
「こちらこそありがとうございました。やっぱりお強いですね」
「まぁね。てかアレまでコピー出来るんだ。正直予想以上だったよ。それで一つ聞いてもいいかな」
「はい」
「本気じゃなかったよね?」
流石はトッププレイヤー。
奥の手を全部出したとなれば、後で後ろにいる三人に何を言われるか分かったもんじゃないと蓮見はこれでも気を付けながら戦っていた事に綾香は気付いていた。だけど怒ってるって感じはしなかったので正直答える事にした。
「気付いていましたか」
「うん。だけどありがとう。私ね正直に言うと『幻影の舞』を今まで攻略してきたプレイヤーいないから絶対に通用すると思ってた。だけど紅には通用しなかった。もしその短剣が壊れなかったらと思うと正直恐ろしいかった。おかげで次の目標が出来たよ」
「でも結局は見ての通り十四連撃までしか対抗出来ませんでした」
実際は六連撃目に短剣にヒビが入り、七連撃目には蓮見の短剣は粉砕し光の粒子となって消えてしまった。そこから残った一本で対抗しようと頑張ったが八連撃目に移る前にこちらも手から消えてしまったのだ。
「ならそうゆう事にしておく。まさか奥の手まで出せるぐらいに紅が強いとはね。それで紅の奥の手後何個あるの?」
「二つですかね」
「マジで?」
綾香の顔が少し引きずる。
自分相手にまだ隠し持っているのかと言いたげな表情を蓮見に向ける。
「マジです」
「なら今度はイベントで会いましょう。その時は私も本気で行くから覚悟しておいてね。でもその時は紅も本気で来てね。ならバイバイ」
そう言って綾香は嬉しそうに立ち去って行ってしまった。
綾香と変わるようにして美紀達が迎えに来てくれた。
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