拍手 153 二百五十「ジョン・ウォルター・スミス」の辺り
彼女の記憶が始まった場所は、白くて明るい天井がある部屋だった。
「ここ……どこ……?」
起きて周囲を見回す。白い壁、白い床。寝ていたベッドのリネン類も白。来ている簡素な服も白だった。
窓のない部屋には、扉が一つ。彼女は起き上がってベッドから降り、扉を開ける。
「ん、目が覚めたか」
扉の先には、今までいたのよりも広い部屋。天井が高く、白というより淡い黄色の光が満ちている。
「だれ?」
「言葉がわかるのだな」
「基本的な知識は、植え付けてあるから」
「便利な事だ」
言葉の意味はわかるけれど、目の前の人物が誰と話しているのか、よくわからない。
白い髪に白い髭の人物は、立ち上がってこちらに近づいてきた。
「私はジョン。教皇だ。これから私の事は父と呼ぶがいい」
「ちち?」
「お前の名は、カタリナだ。英語読みのキャサリンよりは、その方がいいだろう」
「かたりな……」
翌日からは、ナイフを使った訓練が始まった。動き方はわかっているのに、うまく体が動かない。その度に、父……お父様いから叱責される。
「そんな事でどうする!」
「もっと機敏に動かんか!」
「敵は待ってはくれんぞ!」
叱られるのは悲しい。だから、訓練は真面目に行い、「敵」を倒す事に集中する。
敵を倒した時は、お父様がとても喜んでくれるから。
「今日の動きは良かった」
「これでレベルが上がったな」
「よくやった」
お父様に褒められると、嬉しい。お父様が喜んでくれると、嬉しい。だから、これからも「敵」を倒し続けるのだ。
なのに、どうしてこんな事に?
掠れいく意識の中で、カタリナが最後に呼んだ名は誰だったのか。
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