拍手 029 百二十六話 「地下都市」の辺り
「ベル、元気かなあ?」
窓から外を眺めながら、ザミがぽつりと呟いた。下宿の部屋には、幼なじみで同じパーティーにいるシャキトゼリナが遊びに来ている。
「まだ戻らないの?」
「戻ってきたらしいんだけど、また出かけちゃったみたい。ここのところ、ずーっとすれ違いなんだ」
「ふうん」
ザミにとって、ティザーベルは帝都に出てきてから出来た初めての友達だ。下宿の部屋も隣だし、何かと巡り合わせがあると思っている。
以前組んでいたパーティーのごたごたの時も、色々と面倒をかけてしまったし、世話にもなった。それ以来、彼女の故郷の友達だというギルドの職員セロアも含めて、食事に行ったり遊びに行ったりする仲になっている。
そのティザーベルに、なかなか会えない。向こうが長期の依頼に出ていたり、帰ってきたと思ったらこちらが帝都にいなかったりで、微妙にすれ違っている。
シャキトゼリナも、不満そうだ。
「……モファレナの次の仕事って、何処に行くんだっけ?」
「メドー。周辺に、また小さいけど盗賊団が出没してるんだって」
ザミの問いに、シャキトゼリナが答える。二人が所属している冒険者パーティー「モファレナ」は、珍しい女性のみのパーティーだ。
冒険者稼業に就く女性は少なく、その少ない女性のみでパーティーを組むのはさらに少ない。だが、盗賊討伐には女性冒険者が同行するのは、よくある事だった。
盗賊団は、物を盗むだけでなく人も盗む。特に女性は。そうした女性達を、盗賊団のねぐらで見つけた場合、男性相手だと恐慌状態に陥る事が少なくないのだ。
だから同じ女性で、しかも腕が立つ冒険者の同行が望ましいとされていた。おかげでモファレナは各地の盗賊討伐によくかり出される。
先程シャキトゼリナが言っていたメドーなら、帝都を留守にするにしても、十日かそこらだろう。
「私たちが戻ってくる頃には、ベルも帰ってるといいなあ」
「そうだね」
二人で言いながら、同じように窓から外を見る。下宿屋は路地裏に面していて、ザミの窓からも細い道が見える。
殆ど人通りのない路地裏だ。下宿人が帰ってくれば、すぐにわかる。
でも、帰ってきてほしい人の姿は、まだ見えなかった。
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