拍手 027 百二十四話 「入り口」の辺り
セロアは、暮れゆく空を眺めていた。
「ベル達は、無事かなあ」
ラザトークスまでは、ネーダロス卿が個人で所有している船で行くと聞いている。乗り合いの船ではないから、帝都から向こうまで直行だ。
中の設備も整っているので、船旅は快適だと聞いている。
「でも、行き先があの街だからなあ……」
セロア個人にとっては故郷と呼べる街ではあるけれど、ティザーベルにとってはどうなのか。
辺境特有の排他主義があちこちに見える土地だ。しかも彼女は孤児であり、成人まで孤児院に残っていた身である。そうした存在を疎むのは、あの街独特の考え方だと知ったのは、帝都に出てきてからだった。
それ以前に、前世の記憶があるセロアにしてみれば、何故そこまで蔑むのかが理解出来ない。孤児として育つのは、子供の責任ではなく大人の責任だ。成人まで孤児院にいたのも、突き詰めれば大人側の問題である。
それを子供に責任を負わせるのだから、あの街はおかしい。もっとも、そんな考え方の方こそ、あの街ではおかしい事だったけれど。
そんな街だから、自分が帝都へ異動が決まった時にティザーベルも帝都へ行くよう薦めたのだ。
タイミングも良かった。彼女の足枷になっていたユッヒが、何を思ったのか街の外から来た女に入れあげ、その女と結婚すると触れ回っていたのだ。
その辺りをつついてティザーベルをその気にさせようと思っていたら、一足先に本人の口から彼女に告げたらしい。現実が見えていないユッヒらしい行動だ。
そのおかげで楽にティザーベルを帝都に誘えたのだから、彼には感謝している。もっとも、感謝の念を抱いているだけで、手を差し伸べる気は全くないけれど。
帰ってきたら、また一緒に夕飯を取ろう。その時はザミやシャキトゼリナ、菜々美も誘えばいい。
女だけで、賑やかに楽しむのだ。その席で、大森林の冒険譚を聞けるだろう。なるべくなら、盛り上がるような危険がなければいいのだけれど。
セロアは再び夕暮れの空を見上げる。ラザトークスは雨の多い街だが、この時期は比較的晴天が続く。向こうも晴れているといい。
「無事に帰っておいで」
小さく呟くと、セロアは寮に向けて足を進めた。
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