拍手 014 百八話 「いい傾向」の辺り
「そういえばさ」
そろそろ食べ終わった皿でテーブルが占領されてきた頃、ティザーベルはぽつりと呟いた。
「何?」
「前に、トラブった相手が死んでた」
「へー。冒険者?」
「うん。メルキドン」
「ああ……」
ティザーベルとは違い、人の名前も顔も覚えるのが早いセロアは、ギルドでも情報通で通っている。メルキドンのリーダー、エルードからのしつこい勧誘に辟易していたのも、覚えていたのだろう。
あのパーティーが行方不明になったと教えてくれたのも、彼女だ。そのセロアは、特に感じるものもないようで、手元の飲み物を一口飲む。
「どこでへまをやったやら」
「ラザトークス」
「はい?」
訳がわからないという顔をするセロアに、ティザーベルはシギルから聞いた内容を伝えた。
「大森林の、しかも奥地に行く依頼があったらしいんだ」
「それを受けたから、行方不明の後に死亡が確認されたっての?」
「うん」
「はー……馬鹿じゃないの、そいつら。大森林舐めすぎ」
セロアの言ももっともだが、ティザーベルが気になるのは、やはり依頼内容と匿名だという依頼主だ。
「その依頼の内容、知らない?」
「さすがにわからないわ……あ、でも待って」
セロアは額に人差し指を当てて、何かを思い出そうとしている。
「噂レベルなんだけど、大分上の爵位の貴族が、何かを調べる為に特別の依頼を出した、ってのを聞いた覚えがあるの。もしかしたら、それかも」
「匿名、依頼内容も秘密。……確かに、身分が高ければ押し通せる無茶だね」
「まあね。なんだかんだ言って、ギルドって中央政府に組み込まれてる組織だから」
だからこそ、中央政府に太いコネを持つ貴族なら無理を通せるし、そうでない貴族も知り合いやらなんやらを職員として押し込めるのだ。
「にしても、あんたにしちゃ珍しいわね。人の依頼を気にするなんて」
言われてみれば、確かにそうだ。だが、不思議とこの依頼は聞いた時から気になっている。別に、故郷が依頼の場所だからではない。大森林がある関係で、帝都でもラザトークス行きの依頼は多くあるのだ。
とはいえ、既に依頼は下ろされていて、今は出ていない。セロアも知らないのであれば、調べようもなかった。
――何だかモヤモヤするけど、こればっかりは仕方ないか。
納得は出来ないが、どうにもならない事など世の中にはいくらでもある。これもまた、そういったものの一つなのだろう。
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