君のキャロルが聞こえた(ヤングサンタ、クリスマス、再会)



「自分にはプレゼントなんてないのに、人に配って歩くなんて因果な商売だよなぁ……」


 彼は、『商売』と言ったが、決して運送屋さんではない。営利目的で仕事をしているわけではない。


 この青年、実は一昨年家業を継いだ『サンタクロース』だ。


 若いサンタは、今年イライラしながらプレゼントを『配達』していた。

 そう、『恋人募集中二十数年!』の記録を更新している彼にとっては、クリスマスなど単なる年末の大仕事という認識しかなかったからだ。それでも、父の後を継いだ最初の一年二年は『サンタクロース』という職業は、夢を配る仕事だと夢中でがんばった。


 灯りつけも、雪降らしも、そり飛ばしも、サンタだけの『能力』だ。


 しかし、3年目ともなるとさすがにまわりが見えてきて、むなしさを感じるようなっていた。

 サンタの力を駆使してプレゼントを贈っても、すべてが喜ばれるわけではない。


 贈り物を見てがっかりする子供もいるし、あやしいといって受け取ってくれないことさえある。


 

 ☆


 

 静かな、静かな寒いイブの夜空。


 月明かりのもと、上空をソリで駆ける若いサンタが相棒に愚痴をこぼす。


「なぁ、トナカイ三号~。一人のクリスマスは寂しいよな~」


 三号はそしらぬ顔をして、赤い鼻をピカピカ光らせた。


「お前はいいよ。家に帰れば、身重のトナ子が待ってるもんな~」


 若いサンタはがっくりと肩を落とす。

 もうすぐ今年の仕事が終わろうとしていた。



 ☆



 不意に、彼の耳に澄んだ美しい声のクリスマス・キャロルが届いた。


 しかしそれは、胸を締め付けるような寂しげなものでもあった。

 空耳かと思いよく見れば、眼下に古い教会が見える。


(クリスマスイブに灯りのない教会なんて、おかしくないか??)


 不信に思いソリを急降下させ教会の扉をそっと覗き込む。

 そこには、聖母マリアのように美しい女性が一人たたずんでいた。


 天窓から差し込む月の光で、サンタはそれが誰なのか分かった。


 まだ、10歳かそこらのころに、『サンタなんかいねえ!』と意地悪をして彼が泣かせてしまった少女。アンジェラだ!


 意地悪したのは、かわいい彼女に気があったせいもあるが、自分のうちが『サンタクロース』を生業にしているとは恥ずかしくて言えなかったのだ。


(ここ数年会わないうちに、すっげーべっぴんさんになって~)


 と、顔をほころばしたのもつかの間。

 彼女の顔は青ざめて、とてもはかなく見えた。


 なぜ、こんな教会に灯りも暖もとらずにひとりでいるのだろう。

 サンタは思い出した。


(そうだ、アンジェラは牧師の父さんと二人暮しだったじゃないか……)


 ここしばらくは『サンタ』をやるときにしか故郷に帰ってなかったため知らなかったが、彼女の父が亡くなったことをクリスマスに灯りのない教会から察した。


「父さん……。昔、ニコラスが言ったように神もサンタもいないのかしら……?

 そうよね。いたら、こんなにさびしいクリスマスを迎えることなんてないもの……」


(ニコラス……って、俺の名前じゃないか!?)


 こんなときにか弱い女性の最後の支えになるだろう希望の光を、子供の頃の自分の心無い言葉が消してしまったのだ。

 悲しそうにキリスト像に微笑むアンジェラ、よく見れば髪も短く切っておりとても寒そうだ。


(ああ、あの流れるような蜂蜜色の髪も売ってしまったんだ!)


 サンタは胸が締め付けられた。


 プレゼントを届けたどんな子供より、ここにいる大人のアンジェラのほうがサンタクロースを必要としているのではないか?

 しかし、幼い頃とは言え彼女を傷つけた自分が声をかけてよいものかためらっていると、赤鼻のトナカイ3号に突っつかれた。



 ―――サンタさんはきっといるわよ。


 

 ニコラスは、サンタクロースの赤い服をつまみながら子供の頃のアンジェラの笑顔を思い出した。


 親父が『わしはサンタを引退するぞ。お前が継がないなら廃業だぁ!』といったとき、彼女の言葉を思い出したから、彼は家業を継いだのだ。

 あんな、『笑顔』が見られるなら、だっさい赤い服もそう悪くないかな……と。



 帰りのソリにはプレゼント一つ積んでいない。


 仕方なく自分にできることを考えた。

 もうちょっと口が達者だとよかったのにと、思いながら指を鳴らして、教会内に暖かな明かりを灯した。


 ささやかなサンタの力だ。



 ☆


「よう……アンジェラ……」


「ニコラス……? どうしてここに?」


 戸惑う彼女に、サンタは着ていた赤いコートをぶっきらぼうに渡す。


「別にふざけてこういう格好してるわけじゃないからな!」


「え、ええ……」


「いいから、そのコート着てこっちにこい!」


「ありがとう」


「かあさんが七面鳥を送ってよこしたんだけど、一人じゃ食えねえんだよ!」


「一緒にクリスマスを過ごしてくれるの?」


 彼女の微笑みに、真っ赤になるサンタ。


「アンジェラさえよかったら……。

 って、そこで三号笑うな!!」


 ☆



 荷物のなくなったソリは、二人で乗るには十分だった。


(くそ、サンタコートを脱いでも暑いってどういうことだよ! ええい、雪よ降れ!!)


 サンタが照れ隠しに降らせた雪とは知らず、アンジェラは『きれい……』とつぶやいた。


 そっと、寄り添うアンジェラに、ますます赤くなりながら若いサンタは家路に向かいソリを走らせた。



 ★HAPPY END★

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