「そう言う類の所じゃないわよ、確かに香御堂こうみどうのある山は霊山だけどね、人間が作り出した神聖なるものとはまた違う場所なのよ。榊家さかきけはその地を守る者として山神が自ら作り出した存在の人間、あくまであの山の管理人として作り出した者達だったから本来の榊家さかきけには多少存在なら撃退できる力はあったけど、神降し神殺しっていう神子みこちゃんが持っているような力なんて一切備わってなかったわ。そして榊家さかきけは山を守るため外部との接触を極力避けてきた。結婚も近親婚、当然の事ながら子孫を残すのは難しくなってくる。神子みこちゃんの父親は自分の代で榊家さかきけが無くなってしまう事を危惧して自らの両親の反対を押し切り、外部から相応の神職の娘を貰うことにした。近親婚によって否応なしに高められてしまった濃い血と自ら理解していない強力な巫女みこの力を宿した娘の血、其れ等の精子と卵子が出会って誕生した受精卵を神仏が見逃すなんてありえない話よ。貴方達は人間の中でも特別な存在だけど神子みこちゃんは特注品なの。神仏の器として神子みこちゃんが生まれると霊山はさらに力を増すことになった。かねてから香を扱い、清められていた香御堂こうみどうの場所に大地の気が吹き出す龍穴が現れる。まぁ、当然と言えば当然の話なのよ、神を降ろすのも、殺した神を新たな流れに乗せるのも『道』が必要だからね。ただ、神仏の誤算は神子みこちゃんを手に入れたことで榊家さかきけの人間を少々舞い上がらせてしまったことね。まるで自分が神にでもなったかのようになったのよ。散々神子みこちゃんを利用して神降しと神殺しを強要、幼いころから繰り返される大人の都合のそれに神子みこちゃんは暴走、結局神子みこちゃん以外全ての榊家さかきけの人はもうこの世界に欠片も残っていないわ。自業自得だけどね」

さかきみことさんは大丈夫だったんですか?」

「当然でしょ、あの子が居なければ誰が香御堂こうみどうを管理するっていうのよ。私たちだってあそこが無くなるのは不便だもの。あの子が望もうと望まないと関係なく、あの子は生きとし生けるもの、そして普通ではない力に常に守られているのよ」

「ってことは、さかきさんは本当に最強なんだ。俺の力もさかきさんに言えば無くしてもらえるっていうのはそう言うことだったのか」

「そう、辻堂つじどう自身が意識せずに自然に与えてもらった力をさかきさんに頼んで神殺しの力を使い、無に帰してもらう事が出来るってことだけど、その代りそれをやる際に辻堂つじどうさかきさんに自らが最も大事にしている物を差し出さなきゃならないんだよ」

「もっとも大事にしているもの?」

「そう、それも自分では選べない。潜在的に大事だと思っている物をさかきさんが選び有無を言わさず取っていく。それは友人や両親という人であるかもしれないし、物であるかもしれないけれど、時には感覚や感情であったりもする」

 大事なもの、そう言われて辻堂つじどうは考え込んだ。もし自分がみことに頼んだ場合、何を持って行かれるだろうかと。

 大事なものは沢山ある、両親や妹という家族、それに友人達。物で言えばゲーム機や漫画なんかもある。

あきらはね、一つでは足りなくて家族全員と自分の人間的な感情の一部を取られているのよ」

 廉然漣れんぜんれんの突然の告白に驚き辻堂つじどう道祖土さいどを見る。

「取られたって、道祖土さいどは能力を手放してないんじゃないのか?」

「いいえ、手放しているわ。さらに手に入れたのよ。あまりにも強い道祖神どうそじんとのつながりの力を手放し、そして残してもらった力を操る為の力を手に入れた。初めの代償に家族を、次の代償に感情の一部を神子ちゃんに奉げてね」

「家族って、榊さんが殺したって事……」

「やだ! 違うわよ。まぁ、場合によってはそれもあるけど、あきらの場合は縁を全て奪われたのよ。どんなにしても会うことも出来ないし、万が一会ったとしてもあっちは明という存在を無くしてしまっているから分からない。まぁ、命があるだけマシだけど、家族のことが大好きだったあきらには酷なことよね」

 辻堂つじどうは黙ったまま道祖土さいどを見つめ、その瞳に深く瞼を閉じ頷いた道祖土さいど

 感情の一部、それがどんなものなのかよく分かっていなかったが道祖土さいどを見ればなんとなく分かるような気がした。

 久し振りにあった時、道祖土さいど辻堂つじどうに表情は気にするなと言った。

 顔には表情筋があるから動かすことは容易だろうが、恐らく自分の感情によって自然に動くことはないのだろう。辻堂つじどうはその辛さが分かるとは言えなかったが、それを無くすのはとても嫌な気がした。

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