「つまり、この廉然漣れんぜんれんさんは人に見えるけど実は人じゃなくって、でも神様ではなく動物で神様の使いの狐ってことで、俺はとにかく失礼なことをしては駄目だってことか」

「まぁ、そんなところかな。動物って言っちゃっているけど其れも失礼だから気を付けてね。自分たち人間よりもずっと上の存在だよ。でもそんな人間の中でも自分や辻堂つじどう百目鬼どめきは特殊な存在だからね」

「何かしらの力を持っているって面でだろ? 前ならいざ知らず、今ならそれくらいは分かる。そうだな、百目鬼どめきっていう特別な人間よりも神様の使いに仕える方がずっといいような気がするな」

 辻堂つじどうの少々極端な考えに道祖土さいどは小さく口の間から息を漏らして笑いつつ、少し真剣な瞳を向けて辻堂つじどうにいう。

「自分が百目鬼どめきじゃなく廉然漣れんぜんれん様の方にって言ったのはそれだけじゃないんだよ」

 少し低い声色で言う道祖土さいどの様子に、未だ頭の中は混乱でぐつぐつと何かがゆだっているような気配を放っていた辻堂つじどうだったが、それどころではなさそうだとちょっとまってくれと言ってから深呼吸をし、頭をわずかに鎮静させてからいいぞと道祖土さいどに続きを促した。

百目鬼どめき瑞葉みずはって子はとにかく我儘でね、おそらく辻堂つじどうを人として扱うのではなく単なる憑代よりしろという道具として扱うに違いないんだ。君の意思は無視するだろうし、嫌がればどんな手段を使っても憑代よりしろとして利用するだろうからね。人としての辻堂つじどう百目鬼どめきにとって邪魔な物以外の何物でもない」

「操り人形になるってことか」

「人形の方がまだいいかもしれないよ。かつての百目鬼どめき一族はそれはそれは酷い物だったからね。今は百目鬼どめき一族も分をわきまえていて、無茶に暴走しそうなのは瑞葉みずは一人だけど。廉然漣れんぜんれん様はあくまで神使しんしだからそこまでの非道を行う事は決して許されないし、自分だけで自分の為に動くのは制限がないけど、他者がかかわった状態で自分の為にわがまま放題で動ける立場じゃない。ある意味身を預けるには一番安心な存在だよ。それにね、神使しんしの息のかかった物をどうにかできるのはその眷属けんぞくである者だけになるんだ。つまり辻堂つじどう廉然漣れんぜんれん様と契約を交わせば幾ら百目鬼どめきでも手出しができなくなる。手を出せば待っているのは死だけだからね」

「契約ってそんなものがあるのか? それに暴走するような奴がおとなしく手出しせずにいるのか?」

百目鬼どめきだってこの世界の端くれだからね、眷属けんぞくに手を出せばどうなるかぐらいわかっているはずだよ」

「それに、何事にも契約があるのは当たり前よ。久義ひさよしだって人間社会で何かをするには必ず契約ってものがあるでしょ。どの世界でも形作っている物や者がそこにあるなら当然契約が生まれる、何故かというと世の中は理で出来上がっているからよ。そうね、理を完全に無視して何でもかんでもできちゃうのはこの世では香御堂こうみどう位なものね」

 契約書などという物が神様の間でもあるのかと妙な感心をしていた辻堂つじどうだったが、廉然漣れんぜんれん香御堂こうみどうという言葉に少し首を傾げた。

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