第68話 ドッグタグ(3)

 濡れ髪のままギルドへ向かった俺とシューはミーナの執務室のソファーで一息ついていた。

 不思議そうな顔のシャーリャとフーリン。

 そして、ヴァネッサ。

 もう一人、見知らぬ顔……極東の女性だろうか。鑑定士のようだ。


「はじめまして。タケルさんのパーティーに所属しています。サブリナと申します。えっと、ソルトさんですよね」


 彼女は極東っぽい顔立ちだが違ったようだ。


「S級の鑑定士です。あ……でも登録は極東なので私のことなんて知らなくて当然ですね」


 ミーナが咳払いをした。

 サブリナは慌てた様子で小さな宝石をテーブルの上に置いた。


「これは?」


「先ほどまで潜っていたダンジョンの深層にあったものです。おそらくクリスタルだったもののカケラ。成分をヴァネッサさんが調べたところ……魔物をグレードアップさせるものだと判明しました」


 俺はそれを手に取ってみる。うーん、見たことない輝きだし正直よくわからない。


「サブリナさんたちが入ったのは深層未到達の最上級ダンジョンです。ですが……探索結果によるとクリスタルは存在した形跡はあるもののほとんどすべてが削り出されていた模様です」


 俺とミーナは顔を見合わせた。

 やはり、今回の魔物の進化騒動は人工的に作り出されていたものだったのだ。


「シャーリャ、お願いしていた資料はあるかい?」


「はい、すべて調査いたしました」


 一冊の本のようにまとめられた資料を俺はパラパラとめくる。そして、俺の中で今回の事件がどのようにして起こされているのか合点がいった。


***


「俺たちはすべてのダンジョンでこの現象が起きなかったことで突然変異だと思ってしまいました」


 俺の言葉にそこにいた全員が注目する。

 そう、俺たちがクシナダのたまごを拾った時、あれは単なる突然変異だと思った。その他にも何例か突然変異が見つかったが気にとめるほどの数ではなかった。


「それは、魔石を魔物に与える方法が関係しています」


 俺はシャーリャの資料を取り出して広げた。


大蛇コブラ

【コボルト】

大獅子キングライオン

大鱓おおうつぼ


「これだけに限らず、この系統の魔物のダンジョンで突然変異が起こっています。なぜか、リアわかるか」


 リアは首をひねったがすぐに答えが出て来る。


「冒険者を……食う」


「そうだ。資料を見てください」


 俺はもう一つの資料を広げる。そこにはダンジョンでの犠牲者が記入されていた。


「見てください、変異が見られるダンジョンでは死体が見つかってない冒険者が必ず出ているんです」


 ミーナはぼそりと言った。


「冒険者が食われると……冒険者を食った魔物がグレードアップする。上級や最上級のダンジョンでも突然変異が確認されているのはそのせいなのね」


 問題は、どうやって冒険者にこの魔石を持たせているかだ。


「もしも、俺の仮説が正しかった場合、またギルド内部に犯人がいるということになります。この魔石を冒険者に持たせてダンジョンへ向かわせ、運よく食われればそこで魔物が進化する」


 果たしてそれに何の意味があるんだろう。

 たとえ突然変異が起こったとして、初心者の多くが犠牲になったとして……いずれ調査が入って上級冒険者により討伐されるのだ。


「一体、なんの意味があるんでしょう」


「俺にもそこまではわかりません。まだ、泳がせて見ましょう」


 ミーナは頷いた。

 ここで大騒ぎしたら敵の尻尾を掴めない。


「ヴァネッサさん、この魔石の成分を分析して冒険者たちに簡単に配る方法を探しましょう」


 グリーンスムージーは実験だったか。この魔石の成分を冒険者の体に定着させているか……。

 それとも……。


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