S級鑑定士なのにパーティ追放されたので猫耳娘と農業スローライフ!
小狐ミナト@ダンキャン〜10月発売!
第1話 プロローグ
「ハーレムを作るのが俺の夢なんだ」
目の前に立っている屈強な男は、ついこの前異世界から召喚されたとかいう戦士である。何やら特異なスキルを使い、この最上級ダンジョンをも軽々と攻略してみせる
「どういうことだよ、タケル」
俺はもう一度彼に聞く。
「だから、今日から俺のパーティーの鑑定士はここにいるリアだ」
リアと呼ばれた少女はおどおどと目を泳がし俺に向かってお辞儀をした。彼女はギルドで張り出された新人鑑定士で、冒険者経験はゼロ。
一方で俺はダンジョンに潜ってもう10年近くになるS級鑑定士だ。
「鑑定士なんて誰でも同じだろ?」
タケルはリアの頭をいやらしく撫でながら言った。この最強の戦士はただでさえモテモテなのにこれ以上モテようというのだから強欲だ。
「お前がS級なのは剣術と魔術がそこそこ使える万能型だから。でも俺がいれば鑑定士に武力は必要ないだろ? そうなれば可愛い女の子を守る方が俺としてはやりやすいんだよな」
「それはそうとして、はあれむってのはなんだよ?」
俺の問いにタケルは「あぁ、しらねぇか」と呟いて「なんでもねぇ」と吐き捨てるように言った。
「で、未経験者をいきなり最上級に連れていくのか? 食いもんの鑑定は? 料理は?」
リアがバカにされたと思ったらしく頰を膨らませて俺に反論して来る。
「私はっ……町の定食屋でずっとたくさんの食材を見て来ました。冒険者さんたちがダンジョンから持ち帰る食材を市場で選んで美味しく料理して、笑顔にするのが仕事だったんです! 剣術や魔術に明け暮れて昇級するような人と一緒にされたくありません!」
タケルは申し訳なさそうな顔を作りながら「そういうことだから」と足元に座っていた黒い猫を投げてよこした。
「その汚いの、お前のだろ。一緒に消えてくれ」
フシャーッ!と唾を飛ばしながら唸った猫は俺の腕から滑り降りて先を歩いて行ってしまった。あれは俺の相棒。これまたS級の魔物だがうまく扱えてはいない。黒猫のシューだ。
「やだっ……タケルったらひど〜い」
回復魔術師のマリカがクスクスと意地悪な笑みを浮かべた。
「さっ、女の子だけの方が安心でしょ? リアちゃん。一緒に頑張りましょうね」
こいつらは今まで俺に何度助けられたか覚えてもいないようだった。コボルトのションベンが引っかかったキノコを避けてたのは俺だし、毒林檎の毒抜きをしてアップルパイを作ったことも、このパーティーの資金源である
町の看板娘レベルができる芸当ではない。ダンジョンの中の食べ物は弱い冒険者を間引こうと様々な工夫が凝らされている。
食事ひとつで全滅したパーティーだってざらにある。己の強さを過信して失ったものの大きさに気が付いた頃には毒に倒れているか、錯乱して自滅しているだろう。
「わかった。世話になったな」
——やっと高給取りのお荷物がいなくなったわね
——ギルドでも噂になってたわよ? 法外な値段だったって
——そうそう、私たちにイヤらしい視線むけてくるしさ
タケルの取り巻きたちの悪口が聞こえなくなるまで俺は黙って歩いた。気がつけば黒猫のシューが俺の横を歩き、清々したと言わんばかりに顎をあげている。
***
「えっと……そのお値段では難しいかと……」
ここは
受付の女は俺が提示した金額をみて眉をひそめている。
「1ヶ月……5万ペクスですか」
「それ、普通の鑑定士の10倍の値段ですよ? それに貴方はパーティーを追放されていますよね……そういうマイナスポイントはご紹介する際に……」
なら自分の価値を下げて、へこへこするか?
足手まといになるなと言われ剣術や魔術を鍛錬すればバカにされ、町の看板娘ごときに立場を奪われるような職で俺はずっと生きていくのか?
今度はこの受付の女に愛想笑いをして頭を下げて新しいパーティーに入るのか?足手まといだと言われコックのように扱われ……
「やっぱり、取り下げます」
「えっ」
受付の女はびっくりしたように目を丸くした。
「もう、いいっす」
カウンターに座っていたシューに合図をして俺は出口へと向かった。周りの視線が少し痛い。
最強の戦士のパーティーを追放されたなんて何か大きな理由があると勘ぐってしまうもんな。
違うぜ、俺はただ……ただの看板娘に職を奪われたんだ。
「貯めた金もあるし、いざとなれば下級ダンジョンで食材見つけて売って、ちょっと早いけど始めるか」
——俺のスローライフ!!
+++++++++++++++++++++++++++++++++
あとがき
お読みいただき誠にありがとうございます。
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ぜひ、続きもお楽しみくださいませ!
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