第28話 ふわふわと
頭上にうるさく狐火を表示させるきつねだが、音声の方は呼吸一つ聞こえない。
生きているのかどうか心配になる、なんてことはないが、くるくる変わるきつねの表情を無言で見つめてしまった。
『どうしました?』
『いや いきてるな と』
『僕は生きてますよ、少なくとも今はね』
『いま は?』
『これからどうなるかなんて誰にもわからないじゃないですか、そうでしょ?』
『 たしかに そうだが』
物騒なことを言うそれがどこかきつねらしくなくて、俺は首を傾げた。
『どうしたんですか、僕の美声が聴けなくて寂しくてしょんぼりしちゃったんですか?』
『は?』
は?
『もしかして図星?』
『そんなわけないだろ ばか いきなり なにを』
『冗談ですってばぁ冗談冗談』
にやにや笑うきつね。なんだよ。文字だけで相手を怒らせるって相当だぞ。いやまあ、文字だけの方が気持ちが伝わりにくいから誤解とかで相手を怒らせやすいとか聞いたことはあるけど今回の場合表情見えるしこいつ意図的にやってるだろ、普段の行動からしてそうに決まってる。
『怒らないで怒らないで、怒った顔で表情筋固まっちゃいますよぉ? 怒ったたぬきはモテませんよ』
『もてなくていい』
『あらぁ。そういうのはご興味ない?』
『ない どうでもいい』
『そうなんですねぇ、見た目通りとみるべきか、モテなさすぎて拗ねたとみるべきか』
『なんだと』
『あっはっは。だってないでしょ、モテたこと』
『ないけど』
『教えてあげましょうかぁ?』
こちらに身を寄せ、にやりと笑うきつね。
『な』
『あらあらあらあら真っ赤になっちゃってかぁわいい♡』
『なってない!』
『あーおかしい』
『ぜんぜん おかしく ない』
『君といると退屈しませんねぇ』
けらけらという効果音がつきそうな笑いを浮かべてきつねは笑う。
「……」
そこでふと真顔になるきつね。
真顔になると綺麗な造作が目立つ。
じゃなくて、こいつたまに真顔になるけどそういうときいったい何を考えてるんだろうか。俺といるのがつまらないとか、そういうことではないはずだ。俺のことが嫌いだからとか、そういうことでもないはずだ。どちらの可能性もこいつ自身に潰されてしまっているからな。
では、何を?
『きつね』
『なんです』
訊くのか? 今?
『 なんでも ない』
『えーそこで黙ります? 対獣関係のセンスゼロですよ』
『なんだと』
『そうでしょうに。声かけといてそういうことされたら相手がどう思うかって考えたことあります?』
『ない』
『即答! 気になるんですよ』
『でも おれのことなんて きにしても』
『カーッ! そういうやつ! 君はそういうやつですよ! いいですか、僕は君に興味がある。君のことが気になってるんですよ、知りたいんですよ、ここまで言わなきゃわかりませんか? だからそういう態度を取られたら気になるに決まってるんですよ』
ガガガガと長文が表示されたものだから、読むのに時間がかかった。
『ええと つまりそれは』
『旅の仲間でしょ! もっと信頼してください』
『しんらいは してる』
虚をつかれたような表情。きつねの口がぱく、と動く。
『それは、どうも』
きつねはそう表示させると、眉を寄せて笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます