第54話 哀しみと哀れみ
「喰らえ。白戌」
狛犬は縦一閃に刀を振るう。
「
俺は手に握っていたシャーペンで、空中に"操作空間"と刻む。
狛犬が振るう刀が俺の頭に当たるその前に、俺は刀の動きを"操作空間"という魔法の力により操る。
刀に意識を集中させ、刀を遠くに飛ばす。
無防備となった狛犬に意識を集中させ、狛犬を正座させ動きを止める。
「な、なぜ動かない!?」
「これが、魔法という力だよ」
俺は言うと、狛犬は何か思い出したように微笑む。
「なるほど。彩が言っていた力とはこのことだったんだな……」
狛犬は少し哀しげに言う。
「後悔というのは、必ず後からしてしまうものだから、だから後悔からは逃れることができないだよ。何度繰り返しても、何度やり直しても、結局未来は一つの終息点に向かっている」
「狛犬。それはどういう意味だ?」
俺は問う。だが狛犬の答えは黙秘。
さすがにこの狛犬という男には謎が多すぎる。
「神崎翔。この勝負にボクたちが勝ったら得るもの。それは月島杠。異論はあるか?」
すると、下の方から誰かの悲鳴が聞こえる。その声は月島さんと阿迦井さんにそっくりな悲鳴。
「何をした?」
「言っていただろ、この先生が。この勝負は、どちらかが全滅するまで終わらないと」
俺は脇目もふらずに悲鳴が聞こえた方向に走る。
そしてそこだと思われる場所につく。
「月島さーん。阿迦井さーん」
大声で呼んでも返事は返ってこない。
もしかしたらもう殺されたのか、とも思ったが、血の跡がなければ死んでいない可能性が高い。
だがおかしい。
なぜ一人も会っていない?普通ならば一人や二人遭遇してもおかしくないはずなのに。
そう思っていると、この3階に通じるエリアに繋がる階段から、コツンコツンと音がする。
耳を澄ますと下から来ているのが分かる。
「まさか……」
俺は空中に"操作空間"と指を走らせる。
そしてその者を堂々と正面から迎え撃つ。
「あーあ。やっぱ来なきゃ良かったかな」
女性の声だ。
その女性は俺に気づかず俺の方向へ歩いてきてる。
「あれ?誰かいる?」
その女性はそう言った。
俺はその子を良くみてみると、その子は加藤さんだった。
「あれ!どうして加藤さんがここにいるの?」
「だって夜中の学校に変な集団がいるって聞いたから」
加藤さんは護身用に木刀を持ってきている。
だが夜中の学校に一人で忍び込むのは大人でも怖いというのに、加藤さんは平然と歩いているのはなぜだろう。
「神崎くんこそ何してるの?」
「俺もそういう噂を聞いたから月島さんと阿迦井さんと一緒に来たんだけど、途中ではぐれたんだ」
「じゃあ一緒に探したあげようか?」
「いいの?」
「うん。か弱い神崎くんを、私がこの木刀で護ってあげましょう」
加藤さんは運動神経は良いから心強いものの、やはり相手が真剣を持っていると知れば加藤さんの足は嫌でもすくむだろう。
俺は加藤さんを危険な目に遭わせたくなかったが、俺は何も言わずに加藤さんを護ることにした。
そして、俺と加藤さんは夜の学校を歩く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます