第292話

数分走り回ったところで太郎は満足したらしい。

生首を床に落としてこちらへと戻ってきた。


「んじゃ、アイテム回収すっかね」


待っている間に俺たちの休憩も終わらせた。

このあとはお楽しみタイムが待っているっ。

結構広い部屋だったし、きっと大量のアイテムがあることだろう。



「たぶん敵は残ってるから気を付けていこうねー」


「全部の敵がこっち来た訳じゃないか」


「この槍もまだ消えてないしな。少なくとも俺の腹に穴開けてくれた奴は残ってる」


しょっぱな奪った槍だけど、結局こっちにきた敵を全て倒しても消えなかったんだよな。

おそらく蹴り上げたあと倒れるか何かして、出遅れてそのまま……なのかなーって思ってる。

部屋のすみっこに居た奴とかものこってるんでないかな、たぶん。


なので油断せずいこう。




「下半身ぐっしゃやん」


「後続に踏まれたかあ?」


部屋を覗きこむと、予想通り何匹かは敵が残っていた。

そして俺が蹴ったであろう足軽だけど、足がボッキボキに折れまくっていた。

中村いう通り後続に踏まれたのだろうけど……これ、うっかりそれで死んでたら、敵が強化されるんじゃなかろうか? だとしたら怖すぎる。


「いやー、しっかし大量だな!」


「罠も大量だろうから気を付けてなー」


「もう引っ掛かんねーからっ」


下手すりゃ死亡判定くらったかもなー……なんて俺が考えている内に、中村はさっさとアイテム回収に向かっていた。

これで罠に引っ掛かったら面白いんだけど、まあさすがにそれはないかなあ。

映像的にもおいしいんだけどなー?




無事回収できましたとさ。


「さすがモンハウ。全員の装備一式揃ったか」


そう感心したように話す中村であるが、その言葉通り全身に鎧一式をまとっている。

当世具足ってやつだろうか。

兜から何から全部揃っていてなかなか格好いい。

お面以外。


なぜか面当て? でないんだよなあ。

ひょっとこが当世具足つけてるのってなんかもう笑うしかないわ。


「なあ島津。クロの目がすわってんだけど……」


「兜がお気に召さないらしい……」


全員分ってことはもちろんクロの分もある。

胴丸なんかは我慢したクロだけど、兜だけは嫌だったらしい。

無言でじっとこちらを見つめている……ちょっとスマホで写真撮っておきたいなとか思ってごめん。

そんなことしたら半日ぐらい口も聞いてくれなくなってしまう。


太郎は気に入ったみたいで、走り回ってるのになあ……。


「あれ?」


まあ、今後のことを考えると装備一式を外すわけにはいかないわけで……クロの無言の抗議にそっと目を反らしながら、自分の装備を確認していたんだけど、ふとあることに気が付いた。


「どしたよ」


「この刀、銘がある」


今までのはたんに打刀とかだったんだけど、なぜかこいつには銘がある……あたり引いたか?


「え、まじ?」


「なんて銘なのー?」


銘があると聞いて、二人がくいついてきた。

太郎とクロはわれ関せずだ。


しかしなんて銘か……よ、読めるかな?


「えーっと……備州長船盛重。備前じゃないんだ」


なんか聞いたことあるような……でもなんか違うような。そんな感じの銘だ。

詳しい人ならピンとくるんだろうけど、あいにく俺は日本刀には詳しくない……しかし銘があるとないとで、なんかこう見方が変わってくるよな。


「やばい、なんか高そうに見えてきた」


……中村と同じことを思うなんて。

ちくしょう。


「……さすがにこれは売れないな」


「他の余った装備売ればいいし。それは使おうぜ」


「んだね」


売ったら高いかもだけど、銘があるってことは普通の打刀より強そうだし、使ったほうがいいだろうな。

またモンハウにぶち当たる可能性もあるし、出来るだけ良い装備にしておきたい。

……ん?



「……」


「北上さん? 大丈夫ですか?」


銘があるって聞いて反応してた北上さんが、なぜかずっと無言になっている。

なにか考えこんでるようだけど、どうしたのかな?


「ん。だいじょぶ。ちょっと考え事してただけ」


俺が心配して声を掛けると、北上さんがふっと笑みを浮かべ、そう答えるとなんでもないと言うように軽く手を振った。


「先に進もっか。早くしないと夕飯食べられなくなるよー」


……ふむ。

そんな深刻そうな雰囲気はないし、隠している感じもしない。

ほんとにちょっと考えていただけかな?


まあ、またなにか考え込む様子をみせたらちょっと聞いてみるか。

とりま北上さんの言う通り、先に進むとしよう。

装備も整ったし、さっきのモンハウでレベルもがっつり上がってそうだから、進む速度はあがるだろう。

たぶん夕飯には間に合うはず。


またモンハウに突っ込んだり、落とし穴に落ちた先がモンハウだったとかなければ――


「おっ、そうだな! さっさと進もガフゥッ!?」


「中村ぁあああ!?」


――なんて考えたそばから中村が罠ふんだ。

これあれだな。ダンジョンはいってそく掛かったやつ。



「ゴホッ……オゴォッ、ちょ、……ちょっと、ま!?」


壁にあたって、落ちた先にまた同じ罠。それを何度か繰り返し、終には落とし穴に落ちる中村。



「ピタゴラスイッチかな?」


笑うわこんなん。


「飛び降りるよー」


踏んだ中村にとっては笑いごとで済まないけど。

とりあえず中村のあとを追って、みんなで落とし穴に飛び込むのであった。




結果からいうと、モンハウじゃなくて普通の部屋だった。

あとモンハウでレベルががっつり上がってたみたいで、以降はかなり楽に進む事ができた。

そして……。


「街……というかでかい建物が一つあるだけだな」


夕方になる前に、俺たちはダンジョンの街へとたどり着いていた。

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