第290話

武者を倒して、念のため亡霊となって復活しないことを確認した俺たちは、手早くその階層の攻略を進め次の階層へと続く階段へと向かっていた。


「この階層はわりとあっさり終わりそうだなあ」


「武者も座ってる時に北上さんに槍で突いてもらえばさくっと倒せたしな」


しょっぱなで大怪我を負うことになった武者であるが、触れる直前まで寄らないと動き出さないので、それを逆手にとって後からブスッと突いて倒している。

武士道に反するとか言われそうだけど、北上さん曰く。


「戦国時代の有名な人が、武士は勝ってなんぼだ的なこと言ってたし、いいんじゃなーい」


とのことなので気にしないことにした。武士が言ってるんだからいいよねっ。


それにさ、俺たちって余所様の住処に押し入って住民切りまくってお宝頂戴しているわけだし、どっちかというと野盗とかその手のやつだよ。武士のカテゴライズじゃないよこれ。


まあ、色々いったけど、ようは勝てばいいのだってことである。


考え方が蛮族だなあ……ハハッ。



「お、階段めっけ」


「マップ的にもここが最後だな」


武者が倒すの楽でよかったわ。

アイテムは渋かったけどなあ!


「次の階層では武器手に入るといいなあ」


「このままずっと素手だったりしてー」


「それはまじ勘弁す」


そんなことを話し、笑いながら俺を先頭に階段を降りる。

端から見ると油断しているように感じるかも知れないが、全員決して油断はしていない。


下りた先には敵がいる可能性もある。武器をしっかり持ち、いつでも動けるように体はリラックスさせる。


アマツダンジョンで戦闘はしこたまこなしてきた。

大抵のことには問題なく対処できるだろう。


大抵のことには。


ゲームなんかで階段を下りて次のマップに行くときって、大抵画面が暗くなって、次のマップに切り替わると急に視界が開けるみたいなのって多いと思うんだ。

この生首ダンジョンも基本的にはそんな感じで、階段から下りてから少し間を置いて視界が開けるんだよね。


だからさ。


階段を下りた直後に目の前に武器を構えた敵が現れる。

なんてことも起こるんだ。


まあ、それは問題はない。

すぐ反応して動けばいいのだから。


問題なのは、俺の目の前にいる敵の後方に部屋を埋め尽くさんばかりの敵がいるって事だろう。

ようはモンダウだ。やったね武器も大量に落ちてるよ! ちくしょうめ。



さて、嘆いていても事態は解決しないわけで。

モンハウに入ったらまず何をするかといったら、やっぱ安全の確保だ。


視界には通路への入り口はない。おそらく行き止まりの部屋なのだろう。

そうなると、とりあえず目の前の敵を放置して、回れ右して通路にいくのが正解か? 部屋の壁との距離からして、おそらく俺たちが居るのは部屋の端の方のはず。背後の壁のどこかに通路があると思う。くそ広い部屋だったらその時はその時で考えるとしよう。


よし、そうとなれば発動は遅くなるけど、走りながら土壁の印を結んでこちらに寄ってくるであろう敵の動きを妨げて……?


「っち」


と、思ったが通路に向かうのより印を結ぶことを優先にする。

なぜかというと、目の前の敵……槍をもった足軽のっぺらぼうの後方にいる奴らが持っている武器。それが気になったのだ。


ゴブリンの全身に毛が生えたような連中が手にしているのは手斧だ。

そして腰には同じ手斧がいくつもぶら下がっている。


そんな大量に持ってどうするというのか? 投げる用に決まってる。しかもぱっと見で10体以上いるのだ。後ろ向きに走りながら全部叩き落とすなんて、そんな器用なまねは出来んぞ俺は。


そんな訳でまず印を結んで壁を作ることを優先する。

印を結ぶあいだ、目の前の敵が黙ってみていてくる訳はないだろうけど……急所に攻撃がこなければ黙って攻撃を受けるとしよう。


槍が俺の腹を貫くのと同時に土壁が発動した。

そして直後に響くドドドと壁に何かがぶち当たる音。いくつか土壁を突き抜けてきているが、だいぶ勢いが落ちている上に、方向もそれていたので俺へのダメージはない。


てか、まさか防具をこうもあっさり貫通してくるとは思わなかった。

この槍かなり威力高いな?


「ちょっと借りるぜえっ」


みんな武器もってるのに俺だけ素手とか不公平だよなあ?


槍を奪うように引き寄せ、足軽の顎を思いっきり蹴り上げる。

引き寄せたせいでさらに槍が腹に入っていくが、もとより背中まで貫通しているので問題はない。



……これで死亡判定になったら笑えないが、さすがにそれはなかった。


後ろに倒れ込んだ足軽を放置して、踵を返して通路へと向かう。

後方では北上さんと中村が土壁を使い通路へと向かう道を作り出していた。

途中にいた敵はクロと太郎のコンビが蹴散らしている。


ほんと頼りになるなあ。

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