第287話
とりあえず生首を太郎に渡し、体と追いかけっこしているのを眺めていると、その様子を少し離れてみていた中村が苦笑いを浮かべながら声をかけてきた。
「んで、どうするよ。このまま続ける? それとも一度戻る?」
んー……。
「ここで戻るのも中途半端だしなあ。続行でいいんでね?」
「街につくまで戻れないんでしょ? 続行しかないんじゃないかなー」
「それもそうか」
そもそも一方通行で戻れないんだったわ。
つっても生首に話をつければ戻れるかもだけど皆戻る気は……クロと太郎はどうするつもりかな。
「クロはどう?」
そう俺がクロに尋ねると、クロはこちらをちらっと見て、尻尾をぱたんぱたんと振る。
いいからはよ進むぞってことだろう。チュートリアルダンジョンには興味なさそうだ。
太郎は追いかけっこ中なので割愛する。
「クロも続行でいいってさ。温いところにはあまり行く気がないみたい」
「さっすがー」
クロさんかっこいー。
俺も見習いたいものだ……とりあえず進むのは決定として、残りのアイテムも回収してしまうか。
まだ掛け軸残ってたよな。
と、いうわけでサクっと前の部屋に戻って掛け軸回収しましたよっと。
「ぱっと見はゴミにしかみえねーな」
俺もそう思う。
埃とかカビとか凄そうだもん。こんなん家にあったら下手すりゃ燃えるゴミ行きだよ。
「その掛け軸? なんでした?」
掛け軸を手に取り眺めている北上さんに声を掛ける。
まあ見た目がゴミだろうが、アイテムには変わりない。
ゲームの内容を考えれば、結構有用なアイテムのはずだ。
「土壁の術だってー」
ほほう。
……土遁の術じゃなくて土壁かあ。用途が限定されちゃってるのね。
しかしこんな術ゲームにはなかったよなー。他のゲームから持ってきてるのか、それとも生首が適当に考えたのか……まあ、そういった差異があることは理解した。
あまり元のゲームがこうだからって考えは捨てたほうが良いのかもね。
その考えに引っ張られ過ぎて、何かよろしくないことが起こるかもだし。
「へー。何度でも使えるみたいだよー」
お。それは朗報……でも、なんか北上さんが首を傾げてる。
何か問題あったのかな。
「でも使い方が……ほい」
北上さんから手渡された掛け軸を手に取ると、自然と使い方が頭に入ってくるが……これは。
「……なっるほどねえ」
「え、なに。どゆこと?」
まさかそうくるとは思わなかった。
でも確かに術なりを使うのであればこの方法もありだなと思う。
とりあえず内容を理解していない馬鹿村に掛け軸……じゃなくて巻物を渡そう。
手に取って分かったけど掛け軸じゃなくて巻物だったらしい。
違いがよー分からんけど、巻物だというのであれば今後は巻物と呼ぶとしよう。
「……術を使うには巻物を開いて読むか、巻物を持っているものが印を結ぶとな。すげーな、おい」
いやー、まさかそうくるとは思わなかった。
巻物を読むのは分かるけど、印を結ぶと来るとはねえ。
ちなみに巻物を呼んだ場合は一度使うと無くなってしまうそうだ。
印を結ぶ場合は何度でも使用可能……ただしMPにあたるものが存在していて、それを消費して使うことになる。
これはHPと同じで時間経過で回復する。でもHPと比べると回復速度は遅いみたいだ。
まあ、何度でも使用可能と聞いちゃ、印を結ぶほうを選ぶよね。
「印を結ぶのむずかしいよー」
「指つりそう」
「まって、これくっそむずい」
全員一致で印を結ぶほうを選んだのはいいけど、難しくてやばい。覚えるの大変だ。
何より俺の指はそこまで曲がらねーのですよ。
「夢中になってくれるのは嬉しいのだけど、いつまでやるのかねえ……?」
覚えるまでだよおっ!
一人だけ使えないとかなったら悔しいじゃん?
格好つけてミスったりしたら恥ずかしいし、きっちり覚えないといかんしょ……。
ちなみにクロと太郎は、前足をぐーぱーするだけで使えるそうな。
太郎でも安心して使える仕様だぞっ。
なんという格差社会。
まあ、可愛いからいいけど。
「とりあえず覚えたし先進むか」
「まだ発動時間が……レベルあがりゃ早くなるかあ?」
「なるとおもう」
「んじゃ、いっか」
1時間ぐらいかけて、どうにか印と順番は覚えることができた。
ただ発動するまで5秒ぐらい掛かるんだよね……術自体は、名前の通り任意の場所に土壁を出すって使いようによっては割と良さそうな術なんだけど、これだけ時間が掛かると発動前に接敵される気しかしない。
レベルが上がれば恐らく発動は早くなるだろうから、レベル上がるのを待つか、それとも使い方を工夫するっきゃないかなーと思う。
ちなみにクロと太郎だけど、こっちも発動時間は俺たちとたいして変わらなかったよ。
なんでも指を開く角度とか色々決まってて難しいらしい……格差社会とか思ってすまんかった。
とりあえず進むかと、道中のモンスターを倒しながらいくつか部屋に入ったところで、今まで見たことないものが部屋にあった。
「この葛篭? なんだろ」
まあ、葛篭なんですけどね。日常生活でそうそう見ないよなこれ。
大きさは1メートル四方ってところかな……人一人ぐらいなら余裕で入れそうである。
「宝箱代わりとかー?」
なるほど。確かにそれはありそうだ。
でもなあ、生首のダンジョンだしなあ……罠とかありそうだなーって思ったんだけどさ。
宝箱と聞いた中村が、ダッシュで葛篭に向かって行った。
「よっしゃ! オープン!」
「ためらいが無い」
「罠だったらどうするんだろねー」
中村……あいつは良い奴だったよ。
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