第275話

また洗濯ネットに突っ込んでやろうかと思いじとっとした目で生首をみるが、とうの生首はその視線い気付いてないのか、それともスルーしているのか変わらずドヤ顔のまま語り続ける。


「君らのチャンネルで流せば、多くの人が存在を知るだろう? 既存のダンジョンとの違いも分かりやすい」


まあ、そうね。

チャンネル登録者がんっがん増えてるし。見るのはダンジョンに興味ある人ばかりだから、宣伝にはもってこいだろうさ。


「そして君たちは新しいダンジョンに最初に挑戦できるわけだよ。まあテストプレイと言うかもしれないが……興味がないわけじゃないだろう?」


「まあな」


やっぱこいつ俺たちの会話とかそのへん把握してるよな。

本体じゃないうえ、生首のくせに生意気な。

やっぱ洗濯ネットに常時いれておかなきゃダメだ。


しかし、こいつ何時までドヤ顔しているつもりなのか。

いい加減、クロがイラっとしてそうな気配があるけども。


「私はダンジョンの宣伝ができて満足。君たちはダンジョンに最初に挑戦できる上に動画のネタも得られて満足。実にwinwinなことだとへぐぅっ!?」


生首の鼻っ面にクロの猫パンチがさく裂したぞっ。


割と痛かったのか、涙目になりながら床を転がりまわる生首。

一方、クロは満足したのか『フンッ』と鼻をならすと、ゴロリと床にまるくなった。


「どうして……」


「ドヤ顔がむかついたらしい」


器用にも髪の毛で鼻をさする生首にそう告げると、生首はクロを恨めし気にみるが……クロがちらっと眼を開いた途端慌てて顔をそらす。


クロは割と容赦ないからな。次は爪がでるかも知れない。


まあとりあえず生首がなんで放送にでたいかってのは理解した。

面白そうだとかそんなんじゃなく、単純に造ったダンジョンの宣伝目的と。


それだけなら出してもいいかなーとは思うのだけどねえ。


「つーか、さすがにお偉いさん方の許可取らないでお前を動画で流すわけにゃいかんっしょ」


無許可だと絶対怒られるべこれ。


「……つまり許可をとってこいと」


「まあ、そう、なる……かな」


これってあれか。あれだよな。

お偉いさん方の枕元にまた生首がでちゃう流れじゃなかろうか。

大丈夫かな?





「……それじゃよろしく頼む」


「はい。今週末に撮影しますね」


大丈夫じゃなかったらしい。

翌朝、そっこうで宇佐見さんから電話来たよ!

あの生首がんばりすぎぃ!


「声に力が無かったなあ……とりあえず中村にメッセージ送ってと」


宇佐見さん、声を聞いただけで明らかに参ってそうだったなあ……生首の本来の外見って、まじでキツイからな。

しかも夢の中? だと目を背けるとかも難しそうだし……そのうち慣れることを期待しよう。


「クロ。次の週末は生首ダンジョンいくよー」


中村にメッセージを送り、スマホを置いてクロに声を掛けると、ぴょいっとクロが膝の上に飛び乗ってきた。


「ん、ほっぺでいいのかな?」


そしてかまえと催促してきたので、ほっぺをふにふにと揉んであげた。

最近のクロのお気に入りなのだ。


クロはもちろん、揉んでる本人も満足できるので素晴らしいことだと思います。


「どんなダンジョンなのやら」


ムニムニと揉みながら、半ば独り言ちるようにつぶやく。

別に返事を期待していた訳ではなかった。


でも、そんな呟きに返事を返す奴がいた。


「知りたいかい?」


「……当日の楽しみにしておくわ」


ああ、生首ですとも。

クロは半分寝かけてて返事どころじゃないからねっ。


「気合いれて使ったからね! 楽しみにしておくといいよ!」


こいつに言われると不安しかねえ。


「ぐふふっ……アマツがどんな顔をするのか楽しみだねぇぇぇ」


「……」


ほんと不安しかねえですわ。

アマツさんはやいとこ、こいつ引き取ってくれないかな……。



なんか朝からドッと疲れたな。

中村からは「あとでくわしく教えて!」って返事がきたので。あとは遥さんに伝えないとだ。


幸いなことにダンジョンに向かうと休憩所にいた遥さんを捕まえることができたので、ちょっと時間を貰ってそのまま俺とクロとの三人で喫茶ルームでお話することにしたよ。


「というわけで、許可が出たら生首ダンジョンに行こうかなと思ってます」


「……生首?」


とりあえず新しいタイプのダンジョンができるって事と、そのテストプレイやら撮影やらをする許可を貰ったことを伝えるが、生首と聞いて首を傾げる遥さん。


「あー……えっと、アマツが開催したイベントで、変なのが乱入してきたの覚えてますか?」


「……覚えてる」


そりゃ覚えてるよね。

主に嫌な記憶として残ってるだろう……。


「あれが造ったダンジョンです」


「大丈夫なのー? それ」


俺の言葉をきいて、キュッと眉を顰める遥さん。

きっと俺も似たようなものだろう。


あらためて大丈夫かと言われると不安しかねえ。

ダンジョン自体には興味もあるし、潜ってみたいとは思うけども。


「アマツがいうにはダンジョンに関しては大丈夫みたいなんすけどねえ……」


「てか生首ってあれと何か関係あるのー?」


あー、そっか。あれが生首になった経緯とか話さないとダメだよな。

撮影には生首も参加するんだし、きっちり説明しておかないと。


……生首が家にいることも伝えてないんだよなあ。

不安にさせるとあれだしって思って、そのままだった。



そういうわけで、今までの経緯とか諸々を遥さんに説明するのであった。

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