第265話
まさかそうくるとは思わなかった。
実家に遊びにこない? この言葉をどうとらえれば良いのだろうか。
付き合っていると言うことを前提に考えれば、ご両親への挨拶と考えてしまうが……ぶっちゃけ俺と北上さんは付き合ってからそんなに経っていないし、腕を組むのすらドギマギするような状態だ。中学生かな?
まあ……そこを考えてしまうと、文字通り遊びにこないかと誘われているとも取れてしまう。
北上さんがじいちゃんばあちゃんの家にきて、餅ついたりしたこともあったしあんな感じで考えているのかな、と。
いやー……これ、どっちだ。
下手に触れると藪蛇になりかねん。いやね、別にご両親い挨拶するのは問題はないのだけど……「え、やだー。なに言ってのー」とか笑いながら言われたら、ちょっと心にダメージを受けそう。
うーんうーん。
「いっすよー! 何着てこうかな」
さり気なく北上さんから情報を得ることにしよう。
ここでスーツとかのほうが……ってなればご挨拶的なあれで、普段着……となれば本当に遊びにいくやつだ。
まあ、北上さんがそのへんの事を気にしてなくて、単に挨拶だろうが普段着でいいんじゃね? って考えてる可能性もあるけど。
ちなみに北上さんに話を振られて答えるまで、ほぼノンタイムである。
レベルアップの恩恵がこんなところにもあったぜ。
「この前いっしょに買ったやつでいいんじゃない?」
あ、はい。
本当に遊びに行く的なやつかな……まあ、どっちでもいい様に手土産持参でいこう。
あと出来るだけ地味目な恰好が良いだろうな……。
「じゃあそれで……何? 中村」
とりあえずそれで行こうと思ったら、なんか中村がこっちを見てた。目を見開いてどうしたのだ。
「実家に遊びっておまっ……えっ??」
何をそんなに驚いて……いや、確かにいきなり実家に遊びにとかいう話をしてたら驚くか?
だとしても驚きすぎな気がするけども。
「なるほど……ちょっと」
「ん?」
なんか中村が手招きしてる……なんぞなんぞ。
「え、なにさ」
手招きされて中村のほうへと向かうと、ガシッと肩を組まれ、そのまま置く方へと引き摺られる……。
まじでなんだよー。
「アメリカで作った彼女どうしたんだよ!? いきなり浮気かこら」
ん???
こんな奥まで引きずり込んで何を……え、まじで何を言ってる?
アメリカで使った彼女って……あれ、そういや詳しく話してなかったっけ。
「アメリカで出来た彼女が北上さんって話」
「なんでだよっ!? アメリカっていうから普通現地の人を想像するじゃん!」
「知らんがな」
なるほど、つまり中村は俺がアメリカで彼女……それも現地人のを作ってきたと思っていたと。
んなわけあるかいな。
「大体英語も出来ないのに現地の人とそんな仲になるわけねーべ。お前、俺が英語出来ると思うか?」
自慢じゃないが英語はまともに話せないし聞き取れないし書けないからな!
「思わんな!」
「クタバレ!」
ふぁっきん。
その後、がっつり夕飯とデザートも食べ、お腹が膨れたところで解散となった。
んで、俺はというと寝る前に北上さんとのやりとりをクロに報告するのであった。
「と言う訳で、明日はちょっとお出掛けするよー」
喉をならすクロの頭を投げ、そう話す俺。
出来ればクロも連れていきたいのだけど、さすがに初日から連れていくのはまずいかな……でもクロにお留守番をお願いするのもちょっと気が引ける。
……なんて考えていたら、クロがこちらをちらりと見て『うにゃん』と鳴いた。
「クロは……わかった、メーカーの人によろしくね」
チュ〇ルのメーカーさんのところに手土産もって遊びに行くそうだ。
手土産は飛竜とかシーサーペントだったりするので、きっと歓迎してくれることだろう。
しかし、クロに気を使わさせてしまったなあ。
お詫びといってはなんだけど、明後日は一日中クロの相手をしようと思う。
そして翌朝……というかまだちょっと暗い時間帯のこと。
「手土産どーすっかなあ……」
俺は北上さんの実家に持っていく手土産を何にするかまだ悩んでいた。
この手の初めてなもんで何を持って行ったら良いのかさっぱりだ。
「両親と兄、それに妹が居るって話だから……調べるか」
自分で考えて分からなければ調べれば良いのだ。
スマホでささっと調べればすぐ出てくるしね……ふむふむ、なるほどね。
「ちょっと、施設のグレード上げてこよう。そんでケーキ買って……あとはポーション詰め合わせでいいかな」
手土産にお菓子は割とありらしい。
それならばと俺は施設のグレードをあげて、美味しいケーキを買って持っていくことにした。
もちろん今のグレードのままでも美味しいのだけど、どうせならより美味しいほうが良いだろう。
ポーションはもう北上さんから渡っているかもだけど、20階層で手に入るやつはまだのはず。
なので20階層のポーションをいくつか詰めて持っていこうと思う。
問題はどう持っていくか……さすがにむき出しのままないよな。
「ねえマーシー。ポーションを箱に詰めてお土産にしたいんだけど、こう……箱とかラッピングとか用意できたりする?」
助けてマーシー!
「お任せください」
「さっすが、頼りになるわー」
半ば冗談だったんだけど、マーシーはさくっと洒落た箱とラッピングを用意してくれた。
マーシーまじで有能すぎひん?
あとはケーキを買ってと……。
「おお、施設がめっちゃ広くなってる。店も増えてんな……ケーキ屋はここら一帯か」
グレード上げたら施設がさらに広くなった。
店の数も増えていて、より専門性の高い店が増えた感じ。
問題は増えすぎて絞り込むのが大変ってことだけど……マーシーに頼んだら、手土産に良さそうなの選んでくれないかな? さすがにBBQ広場とここは管轄が違うから無理だろうけど。
「すっげ、全部うまそう……ポイント大分余ってるし、次の階層あたりで街を選択するって手もあるなあ」
やってくれました。
有能すぎぃ……そしてケーキが美味しそう。見た目もなんだけど、香りがやばい。嗅いだ瞬間ちょっと涎があふれてきたよ。やべえね。
「まあ、他の人と相談してからだな。それに勝手に使うとクロに怒られちまうし」
ケーキ屋とかが増えるだけなら良いだろうけど、さすがに街となるとねえ。
たぶん生活できるってことだよな? 一気に移住すると色々影響でると思うんだよね。
賃貸マンションのオーナーとか泣きそうな気がする。
さて、準備は出来た……出来てしまった。
「滅茶苦茶緊張する……」
「別にちょっと顔出すぐらいだし、何もないって。だいじょーぶだいじょーぶ」
ケーキを買って休憩所に戻ったところで北上さんに捕獲された俺は、そのまま車に乗って北上さんの実家へと向かっていた。
てか、もう着いた。
北上さんの実家はかなり広い……土地もだけど建物自体が相当でかいね。
んで建物は結構年代ものって感じで、文化遺産とかそんなのに指定されてもおかしくは……いや、さすがにそこまでじゃないか。
てか、建物が複数あっていくつかは新しい感じ……こっちが実際に生活しているほうかな?
ちゃんと今風の玄関で、チャイムもあるし……あっ。
「ただいまー」
躊躇なく北上さんが玄関入ったー!?
くそ、こうなったら腹を括って俺も入るしかねえ……いざっ。
そろーって感じで、北上さんの後ろに続いて玄関の中に入る俺。コソ泥かな?
「お、お邪魔します」
そう言って中に進んでいくと……やがて慌ただしい足音が聞こえてきた。
音的に女性……北上さんのお母さんとかだろうか?
やがて玄関近くの部屋の扉が開き、俺の予想通り女性がひょこっと顔をのぞかせた。
「おかえりー、それといらっしゃ……い?」
女性は俺たちを笑顔で出迎えてくれたが……その笑顔がふいに固まる。
なに、なにがあったの、俺なにか粗相した……?
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