第230話

翌朝。俺は胸から喉に掛かる重さに、息苦しさを覚え目を覚ます。

昨夜は映画をみて、明日もあるからと寝たんだよな……なんだ? 目を開けても視界が暗いままだ。



「……おはよ」


顔に掛かる布団を少しずらすと、そこには俺の上で喉を鳴らしながら布団をフミフミするクロの姿があった。


俺の声に少しだけ視線を向けて反応したクロであるが、そのまま何事もなかったかのようにフミフミを続ける。

朝から可愛い姿にテンション爆上げではあるが……。


「喉は勘弁しとくれ……」


フミフミしている下には俺の喉があるんですよ。

息苦しさの原因これだな。



結局クロがフミフミするの止めるまで待っていたら、朝食の時間になってしまった。


「……眠い」


とりあえず急いで寝間着から着替えて外に向かうも、まだ誰の姿もなかった。


「おはー。眠いねえ」


と、思ったらちょうど北上さんも来たね。こちらも眠そうだ。ちょっと映画二本みたのは失敗だったかなー。まあ、俺も北上さんも楽しんで見ていたから良いのだけど。


「あれー? 誰も居ないねえ……まさかまだBBQ広場にいる?」


「あー、そうかも」


まだ飲んでたりしてな!

……いや、まて。お肉はたっぷりあるし、酒と意識さえあれば朝までぶっ通しで飲み続けるとか出来るし、まじで飲んでる可能性あるな。


とりあえず様子を見にいくとするか。

アル中でぶっ倒れてたら大変だし、そんなんでデスペナとか食らいたくなかろう。




「なにこの骨」


「え、全部食べ切ったんだ? てか人増えてないー?」


BBQ広場に行ったら、串が刺さってグルグル回ってるはずの飛竜の姿がなかった。

代わりにあったのは大量の骨と人だ。

昨日あれだけお肉たっぷりだった飛竜はすっかり骨だけになっていた。


なにがあったし。



「なっるほどね」


とりあえず意識が辛うじてあった人に病気治療用のポーションぶっかけて話を聞いたよ。


ものすごく簡単に説明すると、各地の米軍が集まって根こそぎ食ったらしい。すげーな。

そこまで話して米軍さんは力尽きてしまった。ポーション効いてないやん。


「もうちょい詳しく聞きたいけど、隊員さんは無事なのかな?」


たぶん隊員さんはそこまでお酒飲んではいないと思うんだけど……誰かいないかな?


「呼んだか?」


「居たのっ!?」


「最初から居たぞ」


急に横から声が掛かったからびっくりしたわ。

都丸さん、最後まで米軍に付き合って飲んでたのか。その割には平気そうだけど……ザルなのかな?


とりあえず何があったか教えてもらっちゃおう。




「へー、そんなんなってたんだ」


「ああ」


都丸さんから大体の流れを聞いたよ。

まずね、アメリカのお偉いさんが来たんだって。

もっとも飛竜を食いではなく、素材を見に来たってのが正解らしいけどね。


どうも、俺がBBQ用に飛竜を提供したのを、素材として提供されたと勘違いしたらしい。

いきなりの事なんで情報が錯綜してたんじゃないかなーって話だ。


ちなみにそのお偉いさんだけど、BBQ広場につくなりその場に膝をついて崩れ落ちたらしい。

現在手に入る最高峰の素材である飛竜の肉体……それが串に刺さってグルグル回りながら焙り焼きにされてるんだから、そらショック受けるだろう。一部食われてるし。


しかもマーシーが色々手を加えたもんでもう素材としては使えなくなっていたとか。

それを聞いたお偉いさんは一気に老け込んだ。可哀想に。


んでその後、もう素材として使えないのなら全て食ってしまえと、それなら未練もなくなるだろうって事で、各地から米軍を呼んで……って、流れだそうだ。


「骨格標本にはなるかもねえ」


素材として出すつもりは無いけれど、それぐらいであれば持って行って貰っても良いんじゃないかな。

博物館とかに飾るとか使い道はあるだろう。


なんで俺がそんなことを考えたかというとだ。


「死屍累々って感じだね」


酔い潰れた米軍が、あちこちに転がってるんだよね。

んで、その中に明らかに米軍じゃない人が、酒瓶を抱えて項垂れるように座り込んでいたのを見付けてしまったのだ。

たぶんあの人がお偉いさんだろう。


さすがにあの姿を見ると……ねえ?



うーん。

そろそろお昼になろうかとしているのだけど、米軍が全く復活しない。

これ、大丈夫? デスペナ食らったりしないよね、マジで。


「二日酔いってポーションで治らないのがなあ」


「毒用なら治るかも。でも二日酔いにポーションはちょっと勿体なさすぎない?」


「そっか、毒用かー……勿体ないから無しだね」


言われてみれば確かに。

病気じゃなくて毒だよね。中毒とか言うぐらいだし。


とりあえず勿体ないって事で米軍の人らが自力で復活するの待つことにした。

じわじわと起き上がる人が増えてきているので、その内みんな起きることだろう……二日酔いで今日の狩り出来るかは疑問だけど。



その後、お昼だし皆が復活するまでご飯でも食べて待ってようか? というお話になりまして。

マーシーに適当にご飯作って貰って食べていたのだけどね。大体食べ終えたあたりでウィリアムさんとエマ中尉が訪ねてきた。


「おはようございます」


「あ、おはようございます」


お互い軽く会釈しながら挨拶を交わす。

……ふむ。この二人は二日酔いとかは無さそうだね。エマ中尉は結構酔っていたけど、量自体はそこまで飲んでなかったもんね。でも顔は真っ赤だなっ。


「……昨日はお恥ずかしいところを見せてしまい、申し訳ありません」


そういった、深々と頭を下げるエマ中尉。

これはあれか、ベロンベロンになって醜態晒して、しかも記憶が残っているというパターンか。

普段はきっちりしてそうだから、余計つらかろう。


……さて、どうするか。ここで如何に声を掛けるか、俺のコミュ力が試される時が来たぞっ。ダメそう。

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