第203話

そんな姿を見て、思わず固まってしまう。

アマツは俺に向かい、小さく笑みを浮かべ椅子に座るよう勧めるが。


「……やあ、まってたよ。さ、座って」


「声ちっさ」


いつもアマツの声は大きかった。だが今日のアマツの声は普段のそれと比べると余りにも小さく、思わず俺の口から呟きが漏れる。


アマツに進められるがままに、椅子に腰かける俺とクロ。

クロの場合は椅子に乗るといったほうが正しいが……それはさておき。


「……イースが色々やらかしたようで申し訳なかった」


そういうと、アマツは静かに頭を下げた。

決してアマツが悪いわけではないと俺は思うが、アマツには何か思うところがあったのかも知れない。


……そんな頭を下げるアマツを前にしてなんだけど、俺はあることが気になってしまい、アマツの声がどうにも頭に入ってこない。座るときには、声の小さいアマツが衝撃的過ぎて気付かなかったんだけどね……。

何かしらアマツに対して反応を見せるべきだろうが、それもできずただ無言で固まるしかなかった。


「色々思うところはあるだろうが、これでどうにか許してくれないだろうか……?」


「……」


そんな俺をみて、アマツはすっとあるものを差し出してきた。

それは俺がさっきから気になっていたモノだ。


「煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わない」


「え……いらないんですけど」


アマツが差し出してきたのは……なんだと思う?




イースの首だよ。

まじでどういうことなの。俺のこと何か勘違いしてない? 普段、好きで首を切り落としてるわけじゃないかんねっ?

てか、こんなの受け取ったら呪われる気しかしないわ。


「いらない……? おかしいな……本では詫びをするときは首を差し出すと書いてあったのだけど」


「その本、捨てたほうがいいっすよ」


そんなやべえ本読むんじゃねーですよ。

どこのどいつだそんな本書いたのは。


「イースの本体はどうにか封印したから……ああ、そこに居るのは分体のようなものでね、意識こそ本体と通じているけど、力を振るうことはほとんどできない、そんな存在だよ。植木鉢にするなり盃にするなり、好きにしてほしい」


「その本、燃やしたほういいっすよ」


御焚上しなきゃ。


しかし、イースの本体は封印したのか。

やっぱ頻発してた地震はこの二人が原因ぽいな。


んで、この首は分体と……力を振るうことができないのなら、安全かな。いらんけど。


「島津くんの体に入ってしまった因子は……一応、体に害はないんだ。でも、そんなのが体にあるなんて嫌だろう? 時間をかけて取り除いていくから、どうか私に時間をくれないだろうか」


「取り除いてくれるなら別に待ちますよ。だからこれ引き取って」


再び頭を下げるアマツであるが、俺としては時間が掛かるのはまあ、いいのだけど。

それよりこの首を受け取り拒否したいんですが。頭下げてるから見えてないなこの野郎。


「ああ、でもイースがダンジョンを造るのは止められないんだ……ただ、この星では私が決めたルールの枠内でしか造ることはできないから、そこまで酷いものにはならないと思う」


止められんのかーい。

てか力を振るうことはできないんじゃ……ああ、ほとんどって言ってたか。

ダンジョンを造るのは含まれないと。


うーん、アマツの決めたルールねえ……大丈夫? 隙を突かれたりしない?


「まあ、入らないようにするんで……それで、あの、これ」


触らぬ神になんとやら。

まあ、入らなければ問題ないでしょ……引き込まれそうですごく嫌な予感しかしないが。


てか、いい加減こっちをみてくれませんかね。

イースの生首とか触りたくないから、そっちに押しのけることもできない。


「今回は本当にすまなかったね。イースもいい加減落ち着いてくれると良いのだけど……消耗しすぎたようだ。すまないが、少し休ませてもらうよ。緊急の用事があれば姿はみせるから……それではね」


そういうと、アマツは徐々に空気に溶けるように消えていった……そして俺たちの前にはイースの生首が残された。


「……まじ?」


どうやら俺たちは呪いのアイテムを入手してしまったようだ。

シャレにならんわ。




そんなわけで部屋には俺とクロ……それにテーブルの上にイースの生首が鎮座しているのだが……どうすりゃいいんだ。

クロはさっきから生首の匂いを嗅いでは変顔をしている。くさいのかな。


……腐ってないよね?




「どうしよ……燃えるゴミって火曜だっけ」


いっそのことゴミに……なんて危ない考えが頭をよぎるのもしかたないと思う。

燃やしてどうにかなるのかは知らんけど。


と、いった感じで半ば冗談で口にしたんだけどさ……。


「きみも大概ひどいなっ」


「うわっ!?」


「ふぎゃっ」


急に目を開いて話し出したもんだから、めちゃくちゃビビった。

思わず蹴り上げた首は、天井にぶつかり、床に落ちてゴロゴロと転がる。


そして壁に当たり止まったかと思うと、イースはこちらをジトリとした目でみて、口を開く。


「こんな美少女になんて酷いことをするんだね、きみは」


「……生首にいわれてもな」


それに対して俺は、少しあきれた表情で返す。

生首になってまで、まだ言いやがりますかねこいつは。



「いやね、ついついお互い熱くなってしまってね……おかげでこのざまさ。自分のことながら情けない……くくっ」


俺の反応をみて、そう自分を卑下するイースだが……その表情は恍惚としていて、セリフとはまったく合っていない。


その表情をみて、ピンときた。こいつ、ちょっかいかけてきたのは決して俺が目当てじゃないな。

俺をダシにしてアマツとやりあうのが目的だろう……。


「アマツさんも災難だな」


「まったくだねえ」


嫌味も通じやしねえ。

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