第195話


「うぉぉおおいっ」


思わず全力で突っ込み入れてしまった。

いや、あかんでしょ。てっきり映像止めてるもんだと思ってたよっ!


俺の剣幕……と言うか、全員の表情を見てアマツがわたわたと手を振り、言い訳をするが……。


「いや、不意打ちで封印されちゃったもんで対応が……あ、でも大丈夫!ステージ3に関しては一般人が戦闘シーンみても早すぎて分からないだろうから、スロー再生してるんだった!だから実際にはもう戦闘が終わっていても、今放送してるシーンは過去のものだよ!」


「まだ流してるのかよ!?」


「はよ!はよモザイク!」


「なんでまだやってないんだ!」


「はよ!」


ほぼ全員から突っ込みを入れられたアマツは、涙目になりながら慌てて映像を止めるのであった。


もっと早く止めようぜっ。




まあ、そんな事があって……一応映像が全部流れるのは阻止出来た訳だけど?


「どこまで流れた……?」


「えーと……島津くんの目が潰されたとこまで、かな?」


俺の目……?

確か頭部突き抜けて、色々酷い事になってた気がするけど。


てか、あれだね、

中途半端に頭潰しても死なないって実践出来ちゃったね。やったぜこんちくしょう。



まあ、それはさておき。

目が潰れたところまで流したとなると、判定としてはー……。


「あかん」


「その後の死体が動くところと、首を刎ねる場面が映ってないのであればまだ……うーん」


「だめそー。島津くん引き籠ろっか」


「引き籠りましょう」


やっぱダメそう。

さりげなく一緒に引き籠ろうと誘われたので、喜んで受ける所存でございます。

またお部屋に遊びに行ってしまったりするのだろうか。楽しみだね!



まあ、顔は放送されてないし大丈夫とは思うけどね。

……あれ、そういえばアバターから生身に変わったときに、フル装備になってたよな。

あれは一体どういう事なのか……まあ、相手がアマツの同類ってことだし、考えても分からんか。



ん?……てか、あれだ!

あいつの姿も放映されてたって事だよな。


「……あいつの顔もずっと放送されてたのかな?」


あいつの顔見てたら気持ち悪くなってきたんだよな。

戦闘状態で興奮しててそれってことは、冷静な人が見たらどうなるのやら。

精神やられたりせんよね?


「ずっとでは無いかな。俯瞰視点がメインだろうから、そこまで映っては無いはずだよ。いざって時は記憶操作するから安心して」


なるほどなるほど。


「なら大丈夫かな」


「うん……うん?」


「大丈夫か、それ……」


たぶん、大丈夫だと思う……若干不安は残るけどね。


とりあえず一旦ここを出たい。

もう来ないって話だけど、また出てきたら嫌だし……。



疲れたからクロをもふって癒されたい。


まだちゅーるのところで休んでるのかなー……?と皆と外に出てみたのだけど。



会場を中心に人垣が出来ている……てか、全員顔真っ青だな。てか結構倒れてない?

これやっぱ映像流れたのがあかんかったやつか……やっぱアマツに記憶操作してもらうしか……ん?


「わあ、大惨事……クロ?」


なぜか中心にクロが居た。

てかすっげえ威圧感。



あれは、なんだ……スタッフに向かってめっちゃ唸ってるな。

あ、こっち気が付いた。



「わっぷ」


こっちに気が付いたクロは唸るのをぱっと止め、こちらへと超速度で近づいてきて、顔に向かって飛びかかってきた。


これ、俺じゃなかった首折れてない?



顔に飛びついてきたクロは、そのまま頭をこすりつけたり、ザリザリと舐めたりしてくる。


「そっか映像見てたのか、心配掛けてごめんね」


察するに俺が変なのに襲われているのに気が付いて、中に入れろとスタッフに迫っていたのか。

それで威圧も使って……この大惨事に至ると。


それは申し訳ないことをした……俺はクロをぎゅっと抱きしめ、よしよしと頭をなでる。




撫でるが……だんだんクロの顔がむすっとしてきたんだけど?


「え、ちょ、いだだだっ」


腕を蹴りまくって降りてしまった……。

てか普通の人なら腕がもげる威力なんですが。


「えー……」


そのままふんっと鼻をならすとちゅーるの方へと向かって行ってしまった。


さすがお猫様、気まぐれである。




「ん?」


クロが歩いていくと、進行方向にいた人たちは慌てた様子で避けるが……あれ?って感じで首をひねってるぞ。


「アマツさん何かしました?」


「まあ、ちょっと……機嫌悪そうな猫が居た、ぐらいの認識になるよう軽く暗示をね?」


なるほど、そういう事か。

最初はクロにビビってた様子だったけど、今はなんともない感じだ。


てか、こんだけの人数に一瞬で処置するって、やべえなアマツの力。

今後ともお世話になります。


「ありがとうございます」


「いやなに、今回のは私の手落ちでもあるしねえ、これぐらいはさせて貰わないと……ははは」


ハハハッ。


「さっきの戦闘も、モザイク掛かってたと認識するようにしておくよ」


うん、よろしくお願いします。


あれは一般ぴーぽーに見せちゃいけない光景だよ、まじで。


ダンジョンに来る人減っちゃうし、この処置は止む無しだろう。

心が病んだ人量産しちゃうことになるしね。



「さて、みんな」


「ん?」


「何でしょう?改まって」


とりあえず落ち着いたところで、アマツが何か切り出してきたぞ。

何か詫び品でもくれるのだろうか。貰えるものは貰っちゃう所存です。


「色々とハプニングはあったけれど、ステージ3クリアおめでとう!」


ありがとうございます。

あの乱入野郎のせいでえらい苦労しましたよ。ハハハッ。


「クリア報酬として本来であれば、ランダムでアイテムを進呈するところだったけど……お詫びってことで、好きなのを選んで良いよ!!」


詫び品きたあ!

なんでも良いとか太っ腹めっ。


「おお」


「そりゃ良い。何があるんだろうな?」


「アマツシャツからお好きなのを一点とか……さあっすがにないっすよねー!」


まっさかー。

そんなのあったら俺、あっちの味方になってしまいそうだよ。


「勿論!シャツは全種用意してあるよ!」


「あるんかいっ!」


……えっと、どうやって連絡取ろうかな?


「んん?あれは相当良いものだよ?なんと一切汚れも匂いもつかないし、仮に破れても自動修復するおまけ付きさ!」


「……何その無駄な高性能」


一枚あれば部屋着としては凄い良さそう。


「せめて顔をプリントするのはやめよう……」


でも外行くときには着られないね。

あのどや顔なんとかせーやと言いたい。はがそうにも自動修復するおまけついてるって言うし、本来祝福となるべき機能が、呪いと化している。


「ええ??そこはアマツシャツなんだから必須じゃ無いか!」


「そっかー」


「そうだよ!」


「そっかー……」


なんでこの人はこんなにシャツに拘りを持っているのだろうか、謎である……。

理由は聞いたらなんか疲れそうなので聞かない。もうすでに疲れてるしっ。



「さーさー、好きなのを選ぶと良いよ!」


さて……内容確認するか。

これで本当に全部シャツだったら、アマツは人類の敵認識でイイヨネ?





……お?


「SSRのやつあるけど、いいの?」


ガチャの景品もあるじゃん。

あのやばそうな素材もある。


……もうこれ一択じゃね?


「良いよ。そこまぶっとんだ物じゃあないからね……そうだね、うっかり失言すると……あるダンジョンの25階で手に入るものだからね」


「ほー」


「おっと、うっかりうっかり。忘れてくれたまえ」


そう言うとアマツは手を上げ、大げさに首を振って見せる。

なんかむかつく仕草である。


しかし、あの素材……なんだっけ、なんとか神蛇の牙だっけ?

とりあえず25階で取れるってことだから、そうなると例のボードなんかも候補になっちゃうんだよな。今、俺たちがいるの22階だしねえ……いや、でも土蜘蛛並みのスキルが使えるようになると考えれば、今のうち入手したほうが良いか。

これ、25階ってことはまた一段階強くなるタイミングだろうし……んーむ。


「土蜘蛛もそうなのかな?」


「いや、土蜘蛛は……秘密です」


そう言うとアマツは人差し指を口の前に持っていき、片目をパチンと閉じる。



クロの蹴りがアマツの頬にめり込んだ。

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