第127話
言うだけ言ってフェイスガードを戻し、通訳さんが訳すのを見ていると……おぉ、青かった顔が真っ赤になっていく。
そしてそいつは何やら叫ぶと次の部屋へと早足で向かっていく。
おお?もしかして突っ込む気か?それも一人で。
てっきり必死こいて謝るかと思ったけど……俺とクロがあまりにもあっさり倒したもんで、俺も行けると思っちゃった?
ははっ、まさかーそこまでお馬鹿さんじゃないでしょ。
ところで話は変わるけど、ポーションって深い階層で入手出来る物ほど効能は上なんだよね。
俺の感覚的に、5階で入手出来るのは全治1~2週間の怪我を治せる。
そして10階は全治1ヶ月ぐらいかな?
15階のは使った事が無いから分からないけれど、もっと上の効能なのは間違いない。
で、なんでこんな話をしたかと言うとね。
……本当にお馬鹿さんだったらしい。
他の人は止めようとしていたけど、彼らの制止を振り切ってそいつは牛さんへと突っ込んでいった。
そしてダンジョンに響く悲痛な叫び。
ただでさえレベル差があって無理ゲーなのに、こいつ盾すら持ってないからね。
牛さんの突進を避けられる訳もなく、そして防ぐ盾もない……肩に角が突き刺さり、上にかちあげられた時点で片腕が、そして落ちてきたところの追撃で片脚がもげた。
そして顎を踏み砕かれたところで他の人が助けに動き出した。
そっか……もう少し静観を決め込むつもりだったけど、他の人が怪我するのは本意では無い。
「ん」
なので牛の首を刎ねて、他の人に被害が及ばない様にした。
「まだ生きてるね」
そいつの様子を確認したけれど、まだ息はある。
慌てた様子で他の人が千切れた手足を押し当て、ポーションをかけたので……くっついては無いけど、血は止まったので死ぬことはないだろう。
「……ふむ」
俺はそう呟いてバックパックからポーションを一つ取り出した。
15階で買える今有る中で一番良いポーションだ。
そして中身をそいつにかける。
お偉いさん方が話し合っている間に、手足を失う怪我をしましたーってのはさすがに不味いかな、と今更ながら思ったのだ。
これが元で交渉が遅れでもしたらアマツに悪いしね。
んで千切れた手足だけど……ポーションの効果でばっちりくっついた。砕けた顎も元に戻っている。
すごいなこのポーション……そいつも怪我が癒えると気が付いたらしく、よろよろと身を起こした。
「盾忘れたらダメだよ。持ってもっかい行こうか?」
盾あれば行けるでしょ。
何て声をかけてみたら、今度こそ必死になって謝ってきたので……勘弁して上げる事にした。
クロも眠そうだったしね。
とりあえず倒した牛さんは回収する。
一応お肉の確保が目的だったからね。
で、回収したらBBQ広場に直行である。
「マーシー、これで料理お願いするね。内容はお任せでも大丈夫?」
「はい。お任せください」
お肉はマーシーにお任せだ。
俺がやっても大して美味しいものにはならないからね。マーシーに任せるのが一番なのだ。
「それじゃ、料理できるまで飲み物でも……どうしました?」
飲み物でも飲んで待ちましょうか、と声をかけるつもりで振り返ると、全員唖然とした様子で広場を眺めていた。
「ここはもしかするとポイントで購入できる施設ですか?」
「そうですよ。ここはBBQ広場ですねー。あ、一回アップグレードしてるので、ちょっと広くなってます……そこで竿とか貸し出してるので、釣りとかできますよ。沖合に行くと危険ですが」
なるほど。
存在は知っていても購入できるだけのポイントが無かったんだろう。
BBQ広場とかあったら真っ先に購入しそうなイメージあるし。
ま、軽く案内をしてそのままBBQ開催することにしたよ。
物によってはすぐに出来るし、実際に1杯目……と言うか1本目の飲み物が空になる頃には料理が出て来たからね。
かなり肉厚なハンバーガーだ。
チーズもたっぷりだし、よくあの短時間で焼けたなーと思う。
これならアメリカの軍人さんでもニッコリだろうね。
「あ、なるほど」
直ぐ焼けた理由は食べてみて分かった。
薄いパテを何枚も焼いて重ねてるんだねこれ。チーズたっぷりで外見からじゃ気付かなかったわ。
いやー、本当にチーズたっぷりだよね。
本当に……あれ、どうなってんのかな。
「チーズの量すごいっすね」
俺が食ってるハンバーガーもチーズたっぷりなはずなんだけど、彼らが食っているのはもっと大量のチーズが……いや、あれ後から追いチーズしてやがるぞ。あの容器に入ってるの全部溶けたチーズだっ。
「そうですか?普通だと思いますが……」
「ん?チーズかけますか?」
「俺もうちょっと多めで」
「あ、いらないです」
あの量はさすがに胸焼けするわ。
何て言うか……ちょっとばかし食文化の違いという物を味わった気分だね。
あ、例のあいつどうなったかって?
隅っこで野菜食べてるよ。牛がトラウマになってそう。
俺は悪くないからねっ。
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