第119話
アップグレードしても大丈夫そうってことで、何をアップグレードするか悩んでいるとアマツがにっこにこと笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「そうそう、海外組の人だけどね」
「ほい?」
海外組がどうしたんだろ。
……まあ、アマツの笑顔を見ればなんとなく察せるけど。
「主要メンバーは全員チュートリアル突破したよ」
「おぉ……順調ですね。アマツさんも交渉頑張ってください」
やっぱりか。
これで海外……海外ってことはアメリカとイギリス両方かな?どちらもチュートリアル突破したとなると、アマツとの交渉がスタートする訳だ。
1対3どころじゃないけど、ぜひとも良い感じでまとめて欲しいものである。
「ありがとう!いい感じに交渉まとめるから期待してて!」
だから声がでかいねんて。
と、いった感じでアマツから色々お話を聞いた数日後。
ついに例の小麦で作ったパンを試食する日がやってきた。
俺たちは町はずれににある一軒のパン屋の……ちょうど食べるスペースがあったので、そこに集まりパンが焼けるのを今か今かと待ちわびていた。
「めっちゃ良い匂いする」
「うむ」
「楽しみねえ」
店内にはパンが焼ける香ばしい匂いが漂っており、朝食を少なめに済ませた事もあってお腹が空腹を訴えてくる。
「本当に楽しみですなあ」
そして俺たちの言葉に同意するように頷く農林水産大臣の小島さん……とその他の人々。
いやさ、例の小麦のことはお偉いさん方にも報告してたんだよ。
んで小麦を収穫したって話と試食するって話も報告したって途端に、この小島さんが凄い勢いで私も参加させて欲しいと言い出しまして……。
食料自給率の改善に繋がるかもってことで、前々から期待はしていたらしいんだよね。
そこに普通の2倍ぐらいの収穫量があったって聞いて居ても立っても居られなくなったそうだ。
もうね、わくわくしすぎて全体的にテカテカしてるの。
どんだけ期待してたんだって言うね。
まあ、俺はもう慣れちゃったし、大臣が参加しても別に問題ないんだけどね。
じいちゃんばあちゃんも何故か気にしてないし。
「お、お待たせしました」
ただ丘野さんには悪かったかなーと思ってます。
国が関わってるとは事前に聞いてたらしいけど、まさか大臣きちゃうとは思わないよね。
まあ、それは置いといて。
俺たちの目の前には焼きたてのパンが並んでいる訳でして。
「きたきた」
「美味そうだ」
めっちゃ緊張している丘野さんに気付くことなく、俺たちの視線はパンに釘付けになるのであった。
「フランスパンと食パン、それにヴァイツェンミッシュブロートを用意しました。こちらが普段の小麦でこちらが島津さんから提供頂いた小麦を使用しています」
用意してくれたのは菓子パン系統ではなく、食パンとかそういった類の物であった。
単純にパンの味を比較するのだから、そっちの方が良いだろうね。
もちろんハムや野菜といったものも用意してくれているので、そちらとの相性なんかも確かめる事が出来る。
「丘野さん、ありがとうございます。では……まず普段のから行きましょうか」
小島さんの言葉を合図に、俺たちはパンへと手を伸ばす。
どれも焼きたてで温かい……と言うよりは熱いといった方が良いだろう。
フランスパンを手に取り引きちぎると、バリバリと良い音を立て、簡単に千切ることが出来た。
時間が経って冷めたパンではこうは行かないだろうね。
「んっ……うまー!」
「焼きたてはほんま美味しいなあ」
「そのままでも十分美味しいわねえ」
「うん……うん、さすがですね。味、香り、食感全てが素晴らしい」
最初は普通の小麦を使ったパンだったけど、焼きたてと言うこともあって抜群に美味しかった。
単純に丘野さんの作るパンが美味しいってのもあるだろうけど。
とりあえず一通りのパンを食べ、次はいよいよ例の小麦を使用したパンである。
見た目で際は無さそうだが……これで味がいまいちだったらどうしようかと、一瞬不安がよぎるが……まあ、アマツがわざわざ用意したものだし、そんな事は無いのだろう。
もし美味しくなかったらアマツに直談判だ。
「んじゃ、次はー……うおっ」
「おぉ」
「あらまあ」
「これは!」
結果から言うとかなり違いがあった。
おそらく食べ比べなくてもこっちの小麦の方が良い、そう判断出来るだけの違いがある。
味はもちろん、香りも良い。
食感もぱりっとした部分はもっとぱりっと、ふんわりした部分はもっとふんわりしている。
こりゃ凄いわ。
「収穫量が2倍で味も良い……他の作物だとどうなる?大きさが変わるだけか?それとも数が増える……?」
小島さんがぶつぶつと独り言を言い始めたぞ……。
まあ、ものによっては収穫量はあまり変わらないかもだけど、味がこれだけ良くなるんだし色々な作物に使用されるのは間違いないだろう。
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