第96話

まあ、整っても水曜は俺、休みなんで……実際にやるのは木曜から何ですけどね。


で、木曜日の早朝。

首相御一行が到着したーって事で、クロを引き連れて休憩所へと向かったんだけど。




そこにはまるで別人のようになった、お偉いさん方の姿があった。


「わーお」


「ふはははっ!どうよ?1週間鍛えたこの体は」


楽しそうですね、宇佐見さん。

いや、別にポージングしなくても分かりますんで……。



「まさかここまで……うわっ、腹筋割れてる」


やべーですわ。

皮のたるみとか無くなって、筋肉がもりってなってる。

細マッチョ……とまでは行かないけど、それに近いぐらいにはなってるね。


腹筋とか割れているし……てか、なんで皆揃ってポージングしてるんですかね?なんかピクピク動かしてるし。


俺は一体何を見せられているんだ。



「体がね、どんどん動く様になるのが楽しくて……ああ、勿論これは仕事ですから、ね?」


ちょっと呆れた感じが表情に出ていたのかも知れない。

笹森首相がそう言うが……本音ダダ漏れで、建前にすらなってないのですがそれは。





開始前から何か疲れた……。

けどやらない訳にも行かないし、ささっと済ませてしまおう。そうしよう。


「今日の予定ですが、まず皆さんに一度ネズミと戦って貰います。問題なく倒せる様であれば引き続きネズミを狩り続け、まだ無理がある様でしたら筋トレを継続……となります」


実際にやってみないとなんとも言えない所はあるけど、たぶん大丈夫かなーとは思っている。


かなり筋肉付いて体格変わっているし、本当に別人みたい……いや、まてよ。


これ、本当に別人と間違えられたりしそうだよな。

国会議事堂に入ろうとして止められたりしないよね?

ちょっと見てみたいけど。


ネットで影武者説とかでそうだなこれ。



と、俺が何やら心配事をしていると、質問が飛んでくる。


「ちなみにどれだけの数を狩る事になるんですか?」


「んー……」


1000ぐらい?いや、それは俺たちだけか。

……100も狩れば大丈夫な気もするけど……チラッと視線を都丸さんに向け、手で100を作って視線で聞いてみる。


100で良いと思いますー?と。



「出来れば250は狩った方が良いでしょう。それだけ狩れば次の階層もいけるかと」


250か……多めに狩って、少しレベル高めにしておこうって事か。

となると、チマチマ狩っていたら時間掛かっちゃうよね。


「管理者とは出来るだけ早く話したいですよね?」


「ええ、それは勿論です」


よし、言質はとった。


「ふむ……都丸さん、相談なんですが」


都丸さんちょっと相談員させてーと手招きして、これからやりたい事を耳打ちする。

まあ、別に耳打ちする必要無いんですけどね。なんとなくです。


「ああ、それ良いと思う。ま、何をするにしてもとりあえず1匹狩ってからだな」


「ですね……それじゃ、皆さんそろそろ出発します!ポーションを事前に飲んでおくのを忘れずにー」


都丸さんも良いみたいなので出発する事にしよう。

つってもクロが先行でネズミ確保しに行ったし、ちょっと歩いたところで即戦闘する事になるんだけどね。




クロに少し遅れて休憩所をでると……そこには既にネズミを咥えているクロの姿があった。

はやいなっ。



クロが視線で誰から行く?と問いかけてきたので、皆の様子をうかがうと。


「では、私から行きましょう」


そう笹森首相が言って、武器を構える。

残りのメンバーは少し距離をとって後方で待機だ。


武器を構えたのを見て、クロがネズミを放して通路の奥へと消えていく……次のネズミを確保しに行ったのだろう。


解放されたネズミは、もっとも近くに居る人物、つまりは笹森首相に向かい襲いかかる。


……今回は弱らせていないようで、ネズミは元気なままである。


これに対し、笹森首相は余裕をもって武器を振りかぶり、そして思いっ切り振り下ろした。


振り下ろす勢いが前回とまったく違う。

風切り音を立てて振り下ろされた武器は……ネズミの手前を通過していった。


「あ」


勢い良すぎて距離感謝ったのか。

まさか空振りするとは思っていた無かったので、思わず声が出た。


助けに入った方が良いか……と、動き出そうとして、止めた。


何故なら笹森首相がネズミに向かい、蹴りを放とうとしていたからだ。



「ふっ!」


「お、おおう」


つま先がネズミの喉元にめりっといった。

たぶん死ぬか、行動不能にはなるかな。



「お見事。空振った時は焦ったが、良く蹴れましたな」


「はは、ありがとう御座います。……正直言うと焦りました。思った以上に体が動くので……慣れれば問題ないとは思います」


「なるほどな……ところでどこか痛めてたりはしないかい?」


「いえ、何ともありませんね」


首相の周りに集まって、色々と話しているのを聞く限り、痛めている所もないし笹森首相は問題なし、と。


あとは残りのメンバーがどうなるかなー?






「それじゃー皆さん大丈夫だったので、ネズミ狩りやっていきたいと思います」


問題なかったよ。

首相が倒したのを見て、緊張も取れたんだろうね。


一撃で……とまでは行かないにしても、皆結構サクッと倒せていたと思う。

きんとれヤバすぎ。



「全員で行動しても効率が悪いので、チームを三つに分けます。二つは我々が、もう一つのチームは島津さん達が率いて狩りをします……チーム分けはクジで決めましょうか」


これがさっき都丸さんに相談した内容だ。

単に皆で固まってても効率悪いんでばらけましょうって話である。


ここのダンジョンそれなりに広いからねー。

部屋数も多いし、ばらけた狩った方が効率は良いでしょ。


しかし……クジか。

出来ればトップは引きたくない……いや、このメンバーなら誰を引いても似たようなもんだけどさー。


何か嫌な予感がする……俺、くじ運良かったっけ。





「それでは島津さん、はお願いします」


「ハイ」


嫌な予感は当たった。

俺達のチームには……副総理の宇佐見さんと、総理の笹森さんが来ることになった。なってしまった。


クジの結果見て、隊員達ホッとしてたからねっ。

ちくしょーめ。


まあ、いい。

結果次第ではメンバーをローテーションするって話だし、ささっとレベル上げてローテーションして貰おう。


そうと決まれば早速狩りを開始せんとね!

相手はネズミだし、流れ作業でドンドコ狩っていこう。

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