第86話
とりあえず今回はこのまま行くしかない。と言うことで、副総理とか大臣がそろって四つん這いの格好のままダンジョンへと入っていく。
こんな光景見たことある人なんて、そうそうおらんだろーな。
貴重な光景だけど、出来れば見ないで済ませたかったね!
何とかダンジョンに入った副総理一行だけど、四つん這いの姿勢がかなり堪えたらしく、皆どこかしらを摩っていた。
「あたた……」
「くっ……これは本番前に腰にきそうですな」
「ははは」
うーん。大丈夫か、これ?
ネズミとは言えモンスターだ。果たして戦えるのだろうか……正直不安しかないぞ。
下手に怪我されると不味い気がするし。
まあ、考え事をしている時間は余りないんだけどね。
俺とクロは既にモンスターの気配を捉えている。
もう間も無く、ネズミが姿を現す事だろう。
少し間を置いて、先頭を行く隊員さんも気が付いたようだ。
立ち止まると後ろに向かい注意する。
「止まってください、来たようです」
そう言うや否や曲がり角からネズミが飛び出し、隊員へと襲い掛かる。
これで相手が隊員ではなく、副総理達であれば不意打ちになり怪我を負わせるぐらいは出来たのかも知れない。
だが、相手は隊員であり、レベルも5まで上がっている。
ネズミではもう相手になっていなかった。
隊員あっさりと顔面を蹴られ、ネズミは沈黙した。
隊員さんがネズミが死んだのを確認すると、彼らもネズミへと近づいていく。
「思っていたよりはえぇな。それに噛まれたら痛ぇじゃ済まなさそうだ」
「こうして見るとかなりでかいね」
「……首が折れていますね。モンスターと言う割には、普通のネズミとあまり変わらないように見えますが……」
小さめの猫ぐらいと、ネズミにしては大分デカいが……近付いて観察する彼らの姿からは、恐れと言った物は無いように見える。
勿論全くない訳では無いだろうが、それよりも好奇心が勝っているのだ。
それにネズミより遙かに強い者達が護衛としているのも大きいだろう。
「1階のはぶっちゃけただのネズミですね」
めっちゃ弱いからね。
まさにチュートリアルの最初の敵に相応しいと思う。
宇佐見さんは噛まれたら痛いじゃすまないとか言ってたけど、すね当てあれば痛いで済むと思う。
「報告にあった通りと。次は我々が……?どうかしましたか、島津さん?」
河田さんは自衛隊からの報告を結構見ているんだろうね。
ネズミの付いての情報は事前にばっちり入手済みと言うことだ。
んで、そんな河田さんが俺に対しどうかしたのかと、声をかける。
どうしたのかと言うとね。
クロが何時の間にか居なくなってたんだよ。それでどこ行ったのかな?とキョロキョロしてたのだ。
「いえ、クロが居なく……あっ」
これ、ちょっと前にも似たような事があった気がする。
「クロさんが? あっ」
隊員さんも心当たりがあったらしい……てか、あれだ。間違いなくあれだ。
「どうした?皆して口に手ぇあててよ」
「猫がどうかし……っ」
「まさか、これが例の……?」
やはりそうだった。
クロは副総理一行の為に、ネズミを匹だけとってきてくれたのだ。
なんて気が利くにゃんこなのだろう。
「1匹だけ獲ってきてくれたのね、ありがとー」
そう言ってクロの頭を撫でると、クロは満足げに鼻を鳴らし、宇佐見さんの方へと近付いていく。
そしてネズミを咥えたまま、じーっ宇佐見さん見つめている。
「なんか俺見られてねえか?」
「まずは宇佐見副総理から、と言う事だと思います」
「お、おう……そんじゃ、やってみるかい」
宇佐見副総理から、と俺が言うと、宇佐見さん武器を構える。
が、明らかに力が入りすぎている気がする。
大丈夫かな?何時でも助けに入れるように準備はしておこう。
宇佐見さんが構えると、周りの人は距離を取り宇佐見さんとクロから離れていく。
そして宇佐見さんの準備が整ったとクロは考えたのだろう。
ぱっと咥えていたネズミを宙に落とした。
ネズミの足が地面に着く頃には、クロの姿はもうそこには無く、宇佐見さん背後へと回り込んでいた。
ネズミのターゲットを宇佐見さんに移すつもりなのだ。
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