第75話

勿論ただ連続で戦わせるだけではない。


「ん? 盾がどうか…………盾で吹っ飛ばせと?」


他の隊員から盾を借り、身振り手振りで盾の使い方を教えようとしたり。

……最後は諦めて盾を咥えてゴブリンに体当たりしてたけど。


「足を使えってことっすかね?」


少しずつ後退しながら敵を倒していく様を見せたり。


そんな感じでクロなりに島津が戦っていたのを参考に、彼らに戦い方を伝えようとしていた。


それに加えてクロ自身の戦い方も見せているが、そちらは隊員が参考にするには少々アクロバティック過ぎる動きの為、彼らが真似できるのはもう少しレベルが上がってからだろう。


「うちらナイフ拾いしかやってないねー」


「ええ……でも二人が終われば次は私たちの番ですよ」


「うえー」


まずは二人を鍛える方針だと分かり、残った二人は戦闘後のナイフ拾いをしていた。

1時間も狩れば集まった本数は100を超える。


最初は各自が分散して持つ積りだったが、クロが自分のバックパックに入れないとにゃーにゃーと鳴きまくるので、全部クロのバックパックに収まっていたりする。


さすがにあれだけの本数を突っ込んでも、まったく満杯になった様子が見られないバックパックに全員が疑問を持っていたが、いずれ分かるだろう、もしくはそう言った類の何かなんだろうと言うことで、とりあえずは見て見ぬふりをしているようだ。



そして1時間も狩り続けると、慣れとレベルアップによる身体能力の向上により、怪我を負うこと無くなっていく。

クロは二人が無傷で戦闘を終えると、次の部屋からは4体だったゴブリンを6体に増やした。


そしてそれも無傷で倒せると今度は8体になる。

一度に相手する数が増えるほど、難易度は加速度的に上がっていく。


それでも二人はクロに教わった戦い方、自衛隊で学んだ技術を生かし、ひたすらにゴブリンを狩り続ける。

そしてそろそろ3時間が経とうとした時……。


「よぉっし!無傷でいったぁ!」


「やったっす!」


彼らは8匹を相手に無傷で切り抜ける事が出来た。

ひたすらお互いを削りあう戦闘を3時間も続けたのだ、二人の喜びは相当なものであっただろう。


ハイタッチする二人と、それを見て拍手する見学組。


クロは二人へと近づくと、バックパックを下ろして中をごそごそと漁り始めた。

そして中から何かを咥えると、喜ぶ二人の前へとぽとりと落とす。


「え、これって猫のおや……ありがとうっす」


「ありがとうございます!」


落としたのはクロのおやつ、チュールだった。

頑張ったご褒美と言うことだろう。


それを理解した二人はクロにお礼を言う。

吉田さんに至ってはちょっと涙ぐんでいる。


人がチュールをもらっても……と言うのはあるが、二人はチュールに夢中になっているクロを先日見ている。なのでこれがクロにとっていかに大事な物かと言うのは何となく分かっている。なので素直に喜び、礼を言ったのだ。




ただまあ、貰ってもちょっと困るのは事実だったりする。

現に貰ったは良いけど食うわけにもいかず、見学組に見せびらかせるだけに留めている。


「これ、食えるんすかね?」


「さー」


「猫の食べ物ですし……」


「記念にとっておくっす」


食えるかどうかの話になるが、やはり猫の食べ物なので食べない事にしたようだ。





「……普通に食えるぞ」


……と思ったら、もう食っているやつが居たらしい。


ちなみに味は薄いシーチキンの様だ……との事。



その後はメンバーを交代し、集合時間まで狩りを続ける事となる。

最初の二人組がどう戦っているかを見た後なので、後の二人の戦闘は比較的スムーズに行われる。


結果としては1時間ほど狩り続けて、先行組より2割ほど多めに狩れた、と言った具合だろうか。








「皆そろったねー。 それじゃ戻りましょうか」


予め決めておいた集合時間になり、皆が集まったところで休憩所へと向かう。

この後は昨日と同じように、在庫がいっぱいなお肉を消費するために焼き肉……じゃ昨日と同じなので、マーシーにお願いしてシチューを作って貰ったので、これをパンと一緒に食べる予定だ。


それだけじゃ足らないかもなので、一応焼き肉も用意だけはしてある……まあ、こっちもたぶん食うと思う。




「ん?」


昨日と違ったのは、5階のよくアマツがいる部屋を通った時だった。


「あれ?」


「!?」


「へっ?」


「やー、お疲れ様!」


居ないと思っていたアマツが、なぜか部屋に居たのである。


なんで? と一瞬疑問が浮かんだが、なぜかはすぐに分かった。 大野さんと吉田さん、この二人……アマツの姿が見えているな。


他の人はどうしたどうした?みたいな反応なので、見えているのは二人だけだろう。


「どーも。 どうしたんです?」


「いやー、その二人がチュートリアル突破してくれたからねえ、嬉しくてつい出てきちゃったよ」


「あー……なるほど」


なるほどね。

しかしなんで二人だけなのかな? クロと一緒にいった他の二人は見えてなさそうだし……クロ、どんな方法で鍛えたんだろう。

ちょっと二人が全身血だらけなので、あまり聞きたくはないが。


「どうした? 何か見えるのか?」


「……人がいます」


「人がいるっす」


二人とも混乱してるなっ。

まあ、居るはずのない人が居るんだもん、そりゃ混乱するか。

管理者だとしても妙にノリが軽いしね……さて。



「お二人以外には見えてない様ですけど、管理者がいます」


「! ……つまり二人は条件を満たしたと?」 


都丸さんの問いかけに、二人はコクコクと頷く。


「さて、色々お話したいところだけど、ほかの人も明日ぐらいには突破しそうだし、明日まとめてで良いかな? ほら、潜れる時間も決まっているんだろう?確か半日だったかな?」


「わ、分かりました……」


「えっと、隊長……」


明日で突破できるか。

よかったよかった。


「……分かった。 では今日は予定通り切り上げよう。 島津さん、それにクロさん。明日もよろしく頼みます。 管理者殿、詳しい話は明日お聞かせ願います。では」


二人はアマツの言葉を隊長さんに伝えると、隊長さんはそう言って一礼すると先へと進んでいく。




しかし……クロがさん付けになってたな。


ちょ、ちょっと後でどうやったのか聞いておこうかな?かな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る