第73話

俺がチュールの事でどうしようかなーと考えていると、都丸さんが声をかけてきた。


「ええと、島津さんありがとう。 上手く撮れたかは分からないが……」


報酬にチュールを追加してもらおうかな?そんな事を考えながら、都丸さんの言葉に頷いておく。

上手く撮れていなかったといても俺のせいでは無い。あれだけ激しく動いたし、俺がつけているカメラはもとより隊員さん達が構えていたカメラでも、さっきの戦闘をちゃんと撮れていたかは怪しいところだ。



都丸さんはカメラを構えたまま、ゴブリンへと近づき、さらに床に空いた穴へと近づいて行く。


「しかし恐ろしい威力だな、床がここまで抉れるとは……」


「俺も床がこんなになるとは思ってなかったですね、床に当てたことなかったので……」


いや、本当、まじで。

今まで攻撃を床にあてたことって……確か無かったはずなんだよね。

ここまで脆いとは思わなかった。 あ、いや脆くは無いのか? 普通のコンクリートとか、それ並みの強度はあるのかも知れない。飛んだり跳ねたりしても今まで壊れた事はなかったしね。


「まあ、そうだろうな……それじゃ次は行けるだろうか?」


「あ、はい。 クロ、いけるー?」


次はクロの番か。

俺の動きを見て驚いていたけれど、クロが本気で動いたのを見たらもっと驚くかもね。

猫だし、小さいし、速いし、何より武器がやばい。


アマツがちょっと張り切ったもんで、不可視の刃とかやべー武器になってるんだよね。



っと、それよりもクロはー……クロ?


「どうかしたのかい?」


「ええと、お腹すいただそうで……」


むすーっとしながらこっちを見るクロ。

小さくうにゃうにゃと鳴いているが、これはあれだ、お腹が空いただな。


若返りのポーション飲んで食欲増し増しだし、さらにはチュールを上げると言っちゃったもんで、もうお食事モードに入ってしまってるっぽい。


そのことを都丸さんに伝えるが……。


「なるほど。 じゃあ帰るとするか、動画は島津さんので十分だろう」


と、あっさり帰る事になった。

もしかすると、そこまでクロの動画は求められて無かったのだろうか? こんなに可愛いのに。


まあ、とりあえず戻ろう。

お腹を空かしたクロが今にも一人で帰ってしまいそうだ。





帰り道はほぼ全力ダッシュとなってしまった。

だが、その甲斐もあり休憩所には30分程度で到着する事が出来た。


「回収したナイフは全部ここに集めておきますね」


まずはクロにご飯を上げて、回収しておいたナイフをダンボール箱に詰める。

1時間程度しか狩っていないが、それなりに量はあるね。


「ああ、ありがとう。 随分と量があるな」


「後で使うんで取っておいた方が良いですよー」


「ふむ……」


大体50本ぐらいかな? たぶん2500か5000ポイントにはなるはず。

ポーションをいくつか買うか、装備の改造を少し出来る様にはなるだろう。



さて、クロだけじゃなくてこっちも結構お腹は空いている。

もう12時過ぎているしね。


材料はもう用意してあるし、火を熾せばあとは焼いて食うだけだ。

BBQ用のコンロを出しながら、俺は隊員さん達に声を掛けた。


隊員さん達もお腹空いている事だろう。

たぶん許可も出ているだろうし、いっぱい焼肉食べていって貰おうじゃないの。

て言うかお肉の在庫がたっぷりあるので、出来ればしょり……堪能していってもらいたいね。


「じゃ、ご飯にしますか? と言ってもまた焼き肉ですけど」


「お、やったー」


「嬉しいです」


とりあえず皆喜んでくれた。

特に二人の反応が良いね。


「そう言えばお二人は前回居ませんでしたね」


前回食い損ねた隊員さんだった。

確か北上さんと……や、山崎さんだったかな?違ってたらすまぬ。


うっかり名前で呼べないなあ。


「本当だよー。 皆呼んでくれたらよかったのにー」


「車両から離れる訳にもいかなかったですから……」


可哀そう。


お腹空かせて皆が戻ってくるのを待っていたら……なぜか皆から漂う焼肉の香り。

ショックすぎるな。 今回はいっぱい食べてって貰おう。


「いっぱい食べてください。今日は牛と……羊も用意しておきました」


マーシーに味付けジンギスカンにしてもらったし、網で焼いて美味しく頂けるだろう。

ご飯も炊けてるしばっちりだね……あ、上から炊飯ジャー持ってこないとだ。


「まさか羊も……? どうなってんだこのダンジョンは……」


鹿もおるでよ。

トカゲも居るけどなあっ!


さすがにトカゲ肉は出す気にはならない。

隊員さんは食えるかもだけど、俺が嫌だ。


さって、炊飯ジャーと……チュール取ってきますかね。

実はさっきからクロがこっちをチラチラ見てるのよねー。もうご飯食い終わるぞ? 次は何かわかってるよな? 的な感じで。


放っておくと自分で取ってきかねないので、ささっと取りに行ってこよう。







「そうしていると猫にしか見えないっすねえ」


皆が焼肉食っている横で、チュールを幸せそうに食べるクロ。

そんなクロをみた隊員の感想がそれである。


「実際猫ですし」


「確かにそうっすね!」


見えないも何も猫ですから。



さて、お肉の売れ具合は……うむ、既に半分ぐらい無いね。

このペースなら全部売れそうで何より。


「いけますか?」


食っている反応で何となくわかるけど、あえて聞いてみる。



「お、美味しいです!」


「ジンギスカンうまー」


前回牛を食った隊員は置いといて。

今回初めて食った二人の反応は良いみたいだ。


ダンジョン産……と言うかモンスターの肉なのに躊躇せず食っているけど、事前に話を聞いていたからだろうか?




てかですね。

俺もそうなんだけど……皆あんなスプラッターな光景をみた後でよくこんなに食えるなーとか思わなくもない。

隊員さんの装備は自身の血だったり返り血で赤く染まっていたし、軽く洗い流してはいたけれど全然取れてないし。


慣れかな?

慣れって怖いねっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る