第35話

アマツから海外でダンジョンが見つかったと聞いて少し経った頃、俺はスマホでそれらしい情報が出ていないかチェックをしていた。


「んー……それらしき情報はなし、か」


動画サイトやニュースサイトにSNS、それらを色々見て回るがそれらしき情報は乗っていなかった。


「海外だし、すぐネットにあげそうな気もしたんだけどなー」


枕元にスマホを置き、そうつぶやく俺。

個人的なイメージだけど、ダンジョンとか見つけたら速攻動画をとってネットにあげそうな気がしてたんだよね。特にアメリカ。


まあ、潜る準備とかしているのかも知れないし、もう少し経ったらまた探してみようかな。


「まあ、そのうち出てくるっしょ。 おやすみクロー」


椅子の上でまるくなるクロに声をかけ、電気を消す。

明日も朝からダンジョン攻略だ、しっかり休んでおかないと。




素材を使い靴を改造してから1週間ほどが経った。


俺とクロは今日は今日とてダンジョンへと潜り続けている。


7階以降、ダンジョンの規模が少し大きくなり探索に時間がかかるようにはなったが、昨日の時点でダンジョン内の全ての部屋と通路は網羅した。


残るは次の階へと続く扉だけであり、今日はその攻略のため扉へと寄り道せずに向かっている。


そしてその道中でのことだった。


「お、カードだ。弓だからこれで3種揃ったね」


寄り道しないとは言っても、いくつか通らないと行けない部屋が存在しており、たまたま倒した弓持ちからカードが出たのである。


ちなみにその他の盾持ち、槍持ちはダンジョンのマップを埋める際に既に取得済みだ。


効果としてはゴブリン(盾)が「盾で防御した際に衝撃を緩和する(10%)」、ゴブリン(槍)が「槍で攻撃した際に相手の防御を無視する(10%)」であった。


おそらくこの弓持ちのカード効果も似たようなものだろう。


ちなみにどれもレベル2のカードだったよ。

盾持ちは俺の盾に使っている。


10%って少ないなとは思ったけれど、実際に使ってみると結構変わるね。

いいカードだと思う。



「一つ前の階層のは出てないんだよなー」


一つ前のちょっと装備の良いゴブリンはなぜかカードが出ていない。

狩った数で言えば相当なもんなんだけどねー。


やっぱドロップ率0.1%ってのがネックだよね。


ただ効果としては恐らく剣で攻撃したら云々になる気がするので、ちょっと欲しいんだよなあ。

クロの武器には効果ないかもだけど、俺の鉈には効果あるだろうし。


ま、暇なときにでもちょいちょい狩ってみるとしよう。

そのうち出るでしょ。





「ゴブリン3連続きたけど、次はなんだろうなあ」


もう少しで扉まで付くので、何がでるのか予想してみる。


今までずっとゴブリンだったのでそろそろ違うのが出てもいいと思うんだ。


ゴブリンときたら次はコボルトかなーとか思ったけれど、ゴブリンが結構強いのも出てきてるもんで、コボルトはないかなーとも思う。 仮に出てくるとしてもかなり装備しっかりしているんじゃないかな。


あとはオークとか? オーガはどうだろう、一気に強くなりすぎな気もするけど。



「またゴブリンだったら笑う……笑えない」


さすがに4連続は笑えない。

信じているよアマツさんっ。



そんなこと考えながら歩いている内に扉に到着しましたよ。


さて、盾を構えて中覗いてみますかねー。



そろーっと。


「んー……ほっ」


盾に衝撃はこない。

遠距離攻撃持ちはいないようだ。

それに切りかかってくるようなのも居ないと。


さらにそろーっと盾を出して覗き窓から中を見ると。

やたらと体格の良いのが部屋の中央にいた。


「わーお」


コボルト飛ばしてオークさんだった。

あ、見た目は豚さんタイプだよ。 背丈は俺と同じぐらい、でも体の太さが圧倒的に違うね、武器はかなりでかい斧で鎧もがっつり着込んでるのでかなり強そうである。


ただ、なぜか足が素足なのでクロなら割と楽にやれそうな気がする。



「よしよし、じゃあまず俺から入るね」



お尻フリフリしているクロを撫で、ついでに腰も撫でそう言って盾を構える俺。

クロなら楽そうといってもやっぱ盾持ちが最初に入らないとねー。



オークは斧を両手で持ち、壁を背にしてこっちをじっとみつめている。

これは入っても待ち構えているパターンかなあ?


そう思い、部屋の中へと足を踏み入れた瞬間、オークはこちらに向け全力で駆け寄ってきた。

雄叫びを上げ、思いっきり斧を振りかぶり、俺へと叩きつけようとする。 俺は咄嗟に盾を構えたが、オークは盾など気にした様子はなくそのまま斧を振り下ろしてきた。 盾ごと俺をやるつもりなんだろう。



「おおっとぉ?」


オークの斧は俺の盾にあたるとへし折れ、どこかに飛んで行ってしまう。

そして俺のほうはと言うと盾に跡が付いたぐらいで無傷である。手が若干しびれているがその程度だ。


レベル差がある上に俺の盾も限界まで改造してあるし、カードもセットしてある。

これが同レベル帯の人間が相手であれば話は違ったのだろうが、そこは運が悪かったと思ってもらおう。



「ほい」


斧を振りぬいたオークの腕が隙だらけだったので切り付けてみる。


「浅いか」


手首を狙ったつもりだったが、オークが反応し手甲部分にあたってしまう。 オークの手甲も金属製であり、かなり強度があるようで骨まで断つことは出来なかった。



傷を負ったことでオークがひるむかなと思ったが、ここでオークが予想外の行動にでた。


「おう?」


オークが鉈を持つ俺の腕を掴んできたのだ。


何をするつもり……と考える前に体が動いた。

俺は盾でオークの顔面を思いっきり殴りつける。 折れた歯が盛大に飛び散り、血がダバダバと垂れるがオークはそれでもひるまなかった。


そして盾を持つ俺の腕も掴んできたのである。


このまま力比べでもするつもりか? そう思ったが、オークの考えは違った。


いきなり俺の顔面に噛みつこうとしてきたのだ。 怖いわっ。


「ふんっ!」


噛まれるとか遠慮したい。


俺は鉈の柄でオークの横っ面を思いっきり叩いた。 もちろん腕は掴まれたままである。



「鍛えておいて正解だったねえ!」


オークに掴まれた腕を無理やり動かし、オークの首へと鉈を向ける。


ここにきて初めてオークがひるんだ。


焦って両手で俺の鉈を止めようとするが……それは叶わなかった。 俺が盾を持つ腕でもってオークの腕をがっしりと止めたからである。




「ふいー……攻撃しても怯まずに殺しにくるかー、やっかいだねえ」


ごろりと転がったオークの頭を見て、ここだけ見ると豚だなーと、どこか暢気なことを思いつつ、そう呟く。


実際に俺の膂力がオークより強かったので楽勝ではあったが、そうじゃなかったら最初に捕まったやつはダメなんじゃないかな。 最初の斧で死ぬか、噛まれて酷いことになるはずだ。


「鎧も堅いし、力もかなりあるし……いや、本当鍛えておくのって大事だわ」


1体だけで待ち構えていた事から分かるように、オーク単体の強さは結構なもんだったと思う。

筋トレを初めてそろそろ2か月近く経つ。 俺の体は服の上からでも明らかに筋肉質であるというのが分かるぐらい鍛えられている。


それはレベルアップの恩恵ほどでは無いにしろ、俺の力を底上げしてくれている事だろう。

鍛えるのって大事。




「鎧でかすぎて入らないがな」


その日はそれで探索は終了とし、拠点に戻ることにした。

何せオークの鎧が大きすぎてバックパックに入らないのだ。 鎧を抱えたまま探索するのはさすがにちょっとねー。

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