39.隠し部屋

「この壁……抜けるようになってるのか」


 入り口の反対側。

 壁の向こう側に小さな部屋を見つけた。

 扉はなく、普通に見てもわからない。


「おーい! こっちにきてくれ!」


 俺は三人を壁の前に呼んだ。

 とことこ歩いて近寄ってきた三人は、壁の前で立ち止まる。

 キリエが俺に尋ねてくる。


「何か見つかったのか?」


「ああ。ちょっとこの壁に触ってみてもらっていいか?」


「ここ?」


 キリエが指差す。

 俺が頷くと、彼女は言われた通りに手を伸ばす。

 そして、彼女の手もすっと壁をすり抜けた。


「うおっ! 抜けたぞ!」


 キリエは驚いてとっさに手を引っ込めた。

 もう一度確かめるように手を伸ばし、壁の中に自分の手が消えていく様子をじっくり眺める。

 それを見ていたミアとユイも、キリエの真似をして手を伸ばす。


「ほ、ホントだ!」


「変な壁」


「ほぇ~ よくこんなの見つけたな」


「まぁね。この眼のお陰だよ」


「鑑定眼って意外と便利なスキルだよね」


「そうだよな~ 何で外れスキルなんて呼ばれてんだろ?」


「ははははっ、最近は割りと俺もそう思うよ」


 限界レベルの恩恵だろうか。

 普通の鑑定眼では出来ないことも、俺の場合は出来てしまう。

 見た目とかイメージで判断されると困るけど、彼女たちのように言ってもらえれば、このスキルにも愛着が持てるな。


「さて、さっそく中に入ってみようか」


 そう言って俺が先陣を切る。

 中にモンスターの気配はなく、トラップも設置されていないのは確認済み。

 俺が入って大丈夫だと知ると、三人も後に続く。


 壁の向こう側に広がっていたのは、とても小さな部屋だった。

 こじんまりとしていて、一人で暮らすには丁度いいくらいの広さだ。

 青色の明りが灯っていて、机と椅子が置いてある。

 本棚には古びた書物が並んでいる。

 ミアが部屋を見回してぼそりと言う。


「ダンジョン作成者の部屋……なのかな?」


「ああ。少なくとも宝物庫って感じではなさそうだ」


「なーんだ……宝があるかと思ってワクワクしてたのに」


「残念……」


 キリエとユイががっくりと肩を落とす。

 二人ともそれなりに期待をしていたようだ。

 

「少し調べてみよう」


 俺たちは部屋の中の調査を開始する。

 本棚に並んでいた本は、どれも劣化していて読めなかった。

 床や壁、天井まで確かめたけど、隠し通路的なものもない。

 机の上には壊れたペンと本が置いてあったけど、これも普通には読めない。

 俺が本を手に取り鑑定眼で見てみる。


「これ日記だな」


「日記?」


「ああ。たぶんこのダンジョンを作った人の日記」


 内容は他愛もないことばかりだった。

 日記なんだし過度な期待はしていなかったけど、少しだけ残念だ。

 ダンジョンについても少し触れられていた。

 ただ、ダンジョンの構造に関してではなく、作成途中の感想がほとんどだ。

 これでは参考にならない。

 そう思って最後のページをめくると……


 正しい順番を見つける者に期待する。


 最後の一行にはそう記されていた。


「正しい順番……ん?」


 ぽろっと何かが落ちる。

 裏表紙と最後のページの間に、何か用紙が挟まっていたらしい。

 俺は落ちた用紙を拾い上げる。

 破れてはいないようで、二つ折りにされていた。

 その用紙を開いてみる。

 すると――


「ダンジョンの……地図?」


 用紙に記されていたのは、このダンジョンの地図だった。

 そして、明らかに不自然な部屋を見つける。

 どの道からも繋がっていない部屋が、その地図には記されていた。

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