25.(エクストラ)パチモの一日
ここは雲の上の住まいの中。
ボクは女神パチモ。ダンジョンの女神なんだな。
転生者に、魔王討伐かダンジョン運営のどっちかを選ばせ、ダンジョン運営を選んだ者をサポートするのが仕事なんだな。
魔王討伐を選んだ者?
適当にチート職業とチート武具を身につけさせて送りこんだら、あとは放置なんだな。
本当なら受け持った転生者を全員ダンジョンマスターにしたいけれど、ダンジョンマスターは基本的に魔獣の味方。
ダンジョン運営を無理にやらせて、人間に恨まれているぞどうなってるんだ、と文句言われるのは困るんだな。
過去にそういう文句言う人がいたから、最初に選ばせているんだな。
人間につくか、魔獣につくか。選んだ後は本人の自己責任なんだな。
ピンポーン!
家の呼び鈴が鳴ったから、玄関を開けるんだな。
「パチモさん、配達ですわ~」
ボクと同じ、ダンジョンの女神ホーラが、配達服で現れたんだな。
黒髪をポニーテールにしているんだな。
ダンジョンの女神はボクの他に、ホーラとニセルがいるけれど、彼女達は最近サボり気味なんだな。
2人ともボクの5倍くらいのダンジョンマスターを担当してるけれど、ボクより少ない一部のダンジョンマスターしかサポートしてないんだな。
そのせいで多くのダンジョンマスターへのサポートが不完全になり、地上ではダンジョンマスターが操られ国の言いなりになってるという、訳の分からない事が起こっているんだな。
もちろんボクが担当してサポートした人は全員無事。
冥王様にも褒められたんだな、えっへん。
「サインお願いしますわ~」
「……ホーラ、いくらバイトの収入が良いからって、本業をサボっちゃ駄目なんだなぁ」
「どうせサポートしようがしまいが、上に行く人はどこまでも上に、下に行く人はどこまでも下に行きますわ~。
全員面倒を見るなんて御免ですわ~」
女神ホーラは、ダンジョン階位100位以上しかサポートしない。
それ以下の者はサポートする価値などないといつも言ってるんだな。
確かに、上位の者をサポートすれば、たくさんのDPを稼いでくれるんだな。
ボクたちダンジョンの女神は、ダンジョンで発生するDPのおこぼれを貰って生きているから、優秀なダンジョンマスターの味方をするのは当然なんだな。
でも、他のダンジョンマスターが上級者に匹敵する力を付ければ、もっともっとDPが集まるようになるはずなんだな。
だからボクは初心者だろうと中級者だろうと、まんべんなく面倒を見ているんだな、ふっふっふ。
初心者には初心者サポートで中級者になるまでの道筋を、中級者には上級者への道筋を本に書いて送っているんだな。
でも、最近やって来た伊乃田命という男は、ボクの本をこれっぽっちも読んでないくせに中級者になったんだな。生意気なんだな。
「サイン確かに受け取りましたわ~」
女神ホーラはサインをしまいつつ、次の目的地へ向かうんだな。
「またねですわ~」
今届いた配達品は、お菓子の女神ワサンボからの限定キャラメルケーキなんだな。
お取り寄せだけの、先着50神限定商品。
ようやく手に入れたんだな。
さっそく開けて食べ
『パチモっさーん! ダンジョンバトルの
申し込みだぜぇえええヒャッハー!』
……。
……はぁ。海賊船ダンジョンマスターからの、ダンジョンバトル申請なんだなぁ。
海賊船ダンジョンのダンジョンマスターと湖底ダンジョンのダンジョンマスターの試合なんだな。
「はいはい、今準備するんだな」
ケーキは冷蔵庫に入れておくんだな。
同室に住んでいるダンジョンの女神ニセルが食べないように書き置きで『これはボクのなんだな。食べたらぶっ飛ばすんだな』というメモも一緒に入れておくんだな。
さて、ひと仕事なんだな。
その後は楽しみのケーキなんだな。
◇ ◇ ◇ ◇
水色の髪を揺らしながら、女神ニセルは月に1度の天国掃除から帰ってきた。
「お腹空いたー、パチモーおやつー……いないじゃん」
ソファーに倒れこむ。
「食器と、冷蔵庫からおやつになりそうな物持ってこーい。
テレポートっ」
冷蔵庫からキャラメルケーキが、皿とフォークとセットで女神ニセルの前に転移した。
「お、ケーキ用意してるなんて、パチモ気が利くじゃーん。
んー♪ これおいしいねー」
女神ニセルはケーキを食べ終え、夕飯の支度をしようと起き上がり、冷蔵庫を開ける。
「今日は何作ろうかなーっと、ん?
何この箱、女神ワサンボ特製……?
げげっ、これ限定お取り寄せスィーツってやつじゃん。
私が食べたのってもしかして……」
「ただいまなんだなー」
「……」
「……」
その日、空に小さな流れ星が1つ流れた。
それがふっ飛んでいる女神ニセルだと知る者は地上には居なかった。
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