第22話-クラスメイトたち

 そんなこんなで、俺たちはフリード先生と一緒にクラスΩの教室へ向かった。


「ここだ。五月蠅い奴らが多いが、お前らは静かにしろよ」


 雑談が漏れる木製のドアを開けると、学生たちのざわめきはより一層強くなった。


「――先生が戻って来たわ!」

「――あれはもしかして、今朝先生が言ってた転校生?」

「――男の娘!?」

「――いや、違うでしょ」

「――あの白髪の男の子なんか可愛いかも」

「――ライトニングとフリーレンもいるね」

「――知らないの? 食堂事件よ食堂事件!

 修羅場を目撃した生徒が大勢いたらしいわ」

「――もしかして、三角関係?」

「――半日経たずして、あの子、二人も手篭めにしてしまったの!?」

「――えっ可愛い顔して実は淫獣なの?」

「――一部の間ではハーレム王と言われているって」

「――フリード先生と学園長も誑かされたらしいわ!」

「――えっほんと? あのフリード先生と学園長も……なんていやらしいの!」


 ……は?


 俺はいつの間にかよくわからん変態にされているらしい。

 あとフリード先生と学園長はいくらなんでもないだろ。

 教室はピカピカに磨かれている壁面、窓ガラス、床。

 教壇に立った俺から見て木製で作られた三人掛けの机と椅子が横三列、縦五列にして並んである。

 数えると、リープから教えてもらった通り、教室には三十人近くの生徒がいた。

 クラスΩとは教えてもらってはいなかったが、俺たちのクラスも結構いるのか。

 特殊なのが、えっと……合計二四人。か。


「いやまてよ……男、俺しかいないじゃねえかよ!」


 リープとフィーネを見るからに、確かに特殊って感じがする。

 あとの二二人も何か特別な事情や問題を抱えているのだろう。

 とはいえ、見た目はみんなお嬢様のように見える。 中には俺に怯えている人もチラホラと見かけるが……。

 正直、怯えるのは俺の方だ。


「ハーレム王が喋った!」

「みんな耳を閉じてー、誘惑されちゃうわ!」

「きゃーきゃーきゃっ」


 喋るとさらに何か言われるんだが……。


「如月、ここメルヴェイユ学園は女子学園だぞ。知らなかったのか」


「え? 初耳ですが……?」


「しかし近年、特殊な事情を抱えている男子も入学許可を学園長がしたのだ。故に、問題はないから安心しろ。ただ――」


「……ただ?」


 俺はゴクリと鍔を飲み込む。


「――不純異性交遊だけはやめろ。風紀が乱れる。では自己紹介しろ」


 俺は緊張をほぐすため、深呼吸をしてから教壇の前に一歩踏み出す。


「初めまして、如月煌です。この度、メルヴェイユ学園に転入――」

 

 雑談音が教室で反響する中、俺の声はかき消された。

 クラスメイト全員俺の自己紹介聞かずに勝手に俺について妄想しあってるぜ。


「おい、お前ら、静かにしろ!! さもなくば、卒業させんぞ」


 フリード先生が活を入れた。

 さすが、鬼の教官と呼ばれている先生だ。


「「は~い」」「「はい」」


 ひそひそひそ(やっぱりフリード先生も攻略されているわ)。

 ごにょごにょ(私たち全員落とされちゃうのかしら)。

 ぶつぶつぶつ(キャーっ)。


 ……続けてもいいのかな。


「えっと。この世界の事は正直良くわからない。魔法も使えないのでよろしく」


 ひそひそひそ(魔法使えない人なんているのかしら)。

 ごにょごにょ(でも、本当に使えさなそうよ? 何で転校してきたのかしら)。

 ぶつぶつぶつ(油断させてメロメロ魔法使うに違いないわ!)。


「はーーい。しっつもーーーん」


 クラスメイトの一人が元気よく挙手をした。


「はいどうぞ」


「フリード先生を攻略したって本当ですかー!」


 わははははははははは。

 ざわめきが戻って来た。 だが――


 突然ドーーーーンっと、教卓を叩き付けた音が教室内に響き渡る。


「貴様らの単位は没収する!」


「先生ーごめんさない許してください! 本当の質問は如月君の出身はどこ~?」


 クラスΩ。こりゃフリード先生も大変だな。


「どこ出身かは、分からないな。記憶喪失なんだ。ただ、ワールドから来たって言われているよ」


「「「ワールド!?」」」


 クラスメイト全員が甲高い声を合わせた。

 その一瞬だけは合唱のように響きがあっていて、不思議な空間にいるようだった。


「もしかして異世界の使者!?」

「異世界の使者がうちの学園のうちのクラスに!?」

「これってかなり大事件よ!」


「如月君!」


 元気に挙手をして質問してきた女の子がもう一度俺の名前を呼んできた。


「グループは決まっている? 良ければ私と組まない? 色々教えてあ・げ・る!」


 きゃーっ。

 だいたーん!

 わたしもわたしもー!

 あたしも!


 正直参った。クラスは本当に、お祭り騒ぎだ。

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