第11話- 一重陣魔法 氷雪の風 -
少女が甲高い声で思いっ切り叫び始め、空間に響き渡る。
「うっせぇ! ここ響くんだからもっと声抑えろよ!」
両耳に手を当てるが、俺の声も反響して耳に響く。頭が結構ガンガンする。
「なにがロリコンよ! あ、あたしだって胸は大きくなってきたし、女性よ! 女性! あんた失礼よ! どこがロリに見えるの!?」
俺は視線を、彼女の腕に隠された、微かに膨らんだ胸元を見る。
「そりゃ……って、言わせんな恥ずかしい」
「じょ、じょ、じょじょじょ、上等じゃない……」
怒りか羞恥か、目の前少女は吃っている。
そして、どこから出したのかよく分からないバスタオルを体に巻き付け、
「もう許さない! あんたはここでずっと眠ってればいいのよ!」
と、近くにあった固形物を思いっ切り――ぴょいっと俺に投げ付けてきた。
「おっと、あぶね」
俺は横に移動して投げてきた固形物を回避。
「あー! 避けた! ムカつくーーー!」
そう言い終わると、次々とあるだけ物を俺に投げつけてきた。
「ふっと、よっと! そいっと! そんな貧素な攻撃俺には当たらないぜ……って、あれ?」
投擲攻撃を避けている最中にふっと気づいた。
この部屋の室温が先ほどと比べ異常に低下している事に。
窓ガラスの結露は何故か氷の様に固まっていてザラザラしてる見た目に。
天井の水滴は小さな氷柱に。
そして、床はツルっとスケートリングのように光を反射していた。
「ふふ、ふふふ、あはははははは」
少女は意味深長な満面な笑みを、
「はは、ははは、ははははははは」
俺は恐らく困った顔をして微笑しているに違いない。
お互いの歯を見せ合った数秒後、ドデカイ火花が散った。
「逃げるが勝ちだぜ! さらば!!」
異様な空間変化に対し、俺の脳は警戒信号を鳴らしている。
未確認の状況に対し、作戦も無いまま闘うのは自殺行為だ。
俺はすぐにドアを閉めて廊下を走り、リビングらしき部屋へ入室する。
押しドアのようだった。
「何かドアを防げるものはーっと」
ずっしりした木造円型テーブル、ふわっとしてそうなクッションソファー、インテリア。
必死に辺りを見渡すが、ドアを防ぐ重い障害物になりそうなものは見当たらない。
俺は開閉されないようドアに両手を抑え、全体重を思いっ切り預けた。
「待ちなさい! このド変態!!」
廊下とリビングの境界線である目の前のドアの先から、ドンドンと激しい振動が伝わる。
男女の体格差。さすがに、男である俺が女である少女に力負けがするはずはない。
故に、この勝負貰った!
と、思えたのは、ほんの僅かの間だけだった。
「どうしたロリ少女。もう降参か?」
先ほどまでの罵詈雑言は収まり、辺りは物音一つせずしーんと静まっている。
本当にどこかへ行ってしまったのだろうか。
突如、その静寂をドア先から少女の声が曇りながらも聞こえてきた。
「
何気ない一言。
それは、少女が詠唱したことを意味する。
俺の世界では何をどう唱えようとも、ただ口にするだけの祈り。
一体何が起きるのだろうか。
「うわっ!? マジか――」
ほんの一瞬前まで全体重を掛けていたドアが爆発したかのように俺の体ごと後ろへふっ飛んだ。
「――ぃってぇぇ!」
後頭部と背中を思いっ切り打たれ、ドアと壁に挟まれた。
というかドアが俺を壁に押し付けている。
背後は壁だけで危険物が無かったから良かったものの、何かがあれば怪我どころでは済まかった。
どうやら少女は本気で俺を仕留めようとしているようだ。
「寒むっ!?」
真冬の風が衣服の隙間を縫うように全て通り抜き、直に肌へ貫通しているかのような冷たさの冷気が俺の周りに充満しているのか、寒気が過った。
「――
少女の発する声が聞こえると、目の前の視界を防いでいたドアが元から存在していなかったかのように粉々に砕けた。
真下には残骸が無残な姿で元々ドアであることが全く検討付かない状態になっている。
「おいおい……まじかよ」
ドアが粉砕されたのを間近で見て、俺の背筋が凍りついた。
少女が唱えた言葉は魔法の詠唱。
信じられないが、今の現象は少女の魔法によって起こされたものだと俺は理解できた。
「や~っと姿を現したわね」
ぶち壊れたドアからは、笑み絶えない少女が現れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます