第4話-奇妙な森 続-

「でも、僕にも説明出来ないんだよね。今迄出会ってきた彼らとは違う雰囲気を持っているというかなんというか……」


 無音である森の空間は、さっき俺らが居た世界とは別世界にしか思えない。


「ここはやべぇ。一旦戻るぞ」


「そうだね。僕もそれが懸命だと思うよ」


『――――――――――――――――――――――――――――――――――――』


 健二が最後に何を言ったのか聞き取ることが出来なかった。

 俺らの音声以外には歩いている足音くらいしかないため、余程声が小さい他聞こえないなんてことは無いと思うんだが……。


「ん? 健二、最後になんて言ったんだ?」


「え?『それが懸命だと僕も思うよ』って言ったけど、どうして?」


「は? その後のことだよ。何か小さい声で言ってたじゃんか」


「やだなぁ……何も言ってないよ? さすがの僕でもこの状況でそんなこと言われたらびっくりしちゃうよ」


 気のせいであって欲しい。そうさっきのは気のせいなんだ。


『――――――――――――――――――つ――――――――――――け―――た』


「何を?」


 健二が首を向けて俺に問いかけてきた。


「それはこっちのセリフなんだけど……」


 俺は何も言っていない。むしろお前が言ったんじゃないのか……?


「ちょっと待って。煌が言ったわけじゃなかったの?」


 健二が引きつった顔になりながらも俺を見つめてくる。

 俺は何も話していない。

 少なくとも、『何を?』と返事をするような言葉は発していない……。


「おい、お前まじ悪ふざけは――」


『み――――――つ―――――――け―――た』


「……え?」「……は?」


 例えるなら何処に逃げても最後はお肉にされてしまう家畜の気分。

 絶体絶命逃げ場なし王手だ。

 額から汗が出てくる。多汗症の俺は手のひらからも沢山汗が出てくる。

 これが手に汗を握るというやつなのか?


『―――――――――――――――――――――――――――――コロス』


 男性の声だった。歳は不明だが渋い声なので年上だと思われる……。

 …………。


「「ッッッ逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 俺らは今迄歩いてきは森道を走って走って走り抜く。

 これが体育の五〇メートル走であれば、ふたりとも学年一位二位を争うレベルの速さだ。


「やばいやばいよ! これは!」

「喋るな!! 全力で走れ!!」


 真っ暗な森道を駆け抜ける。

 道がしっかり舗装されていたお陰で躓いたりしないで済んだ。

 舗装されていなければ転んで全力で頭を地面にぶつけていただろう。


 数分間、暗い森を走り続けると、俺と健二は森の入口に付いた。


「おい……健二……あれは……どういうことなんだ?」


 息が切れながらも健二に尋ねてみる。健二の霊感は今回のことについてどのように判断するんだろうか。


「わか……らない……って……さっきもいった……よね?」


 どうやら先ほど森の中で言っていた通りにこれは例外中の例外らしい。

 ゆっくり歩きながらいつもの分岐点に付いた。やっぱり普通に帰るとするか。


「ねぇ煌」


「何?」


「さっきまで真っ暗だったよね。少なくとも森の中では」


「ああ、そうだったけど? ……え」


 一体何が起きているのか……。


「夕日が見えるね。森の中に入った時と同じくらいに」


 一体何が起きているのか……。時が止まったのか?狂ったのか?タイムトラベルをしたのか?


「なんなんだこれは……」


 説明しようのない状況が謎に包まれている。確かに、森の中では夜になり暗かった。

 しかし、森から出ると夕日が見えて周りもしっかりと夕日に照らされオレンジ色に染まっている。ここまでの差が普通あるのだろうか……。

 二人無言で歩いていると健二とのいつもの別れの道に着いた。


「明日、同じ体験した人がいないかクラスで聞いてみようよ」


「そうだな。もしかしたら俺たちと同じ状況に陥った人達がいるかもしれない」


 あぁ……こんなことがあったらテスト勉強に集中できないんだろうな。

 やべえわ……まじで。一体何が起きてたんだ?


「じゃ、また。気をつけて」


 健二と別れて数分歩き、謎現象について考えながら俺は自宅へ戻った。

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