エルフ部屋

土屋シン

エルフ部屋

 卒業旅行の2日目。格安でとったあしびきやまホテルは随分と不思議な作りをして居た。

 何でも戦時中に建てられたものを高度経済成長の真っ只中とバブル崩壊直前に増改築をしたらしく、全貌が分からないほど複雑な構造になっている。古ぼけたクリーム色の外壁とコンクリート製の非常階段のおかげで見た目はどこかの団地の様だ。

 永戸は日向と二人で朝の散歩に出かけて居たが慣れない道に迷い、ホテルに戻って来たのは朝食時間の最中であった。

「日向、朝食券持ってる?」

「持ってない。鞄の中だわ。あと20分ぐらいだし急ごうぜ」

「日向は部屋までの行き方分かる?」

「俺の部屋は2つ目の外階段を上がって行けばすぐだから、お前の部屋なら3つ目の階段で行けると思うぞ」

 日向はそう言うと小走りで駆け出した。永戸も日向の少しうしろを同じ様についていく。


 件の外階段まではあっという間であった。

「永戸、朝食後すぐにチェックアウトだから荷物持って来いよ」

 日向はそう言うと徐に階段を上がって行った。永戸は特に返事をすることもなく奥へと進んだ。

 3つ目の階段だけはなぜか建物内に収まる様造られていた。薄暗くカビ臭い階段は登るのに躊躇する。永戸は仕方なく階段に足を運ぶ。やけに低い天井だ。平均身長の無い永戸ですら簡単に手がつく。それどころか、だんだんと天井は低くなり頭がつき、やがて屈まないと上がれない程になった。段差も天井に合わせるように一段が低くなっていく。

「この階段絶対違うだろ」

 永戸は引き返そうと思ったが目の前に扉がみえた。立ち膝なら入れそうだ。構造不明のこのホテルならこんな入り口もあり得ると思い、扉を開けると部屋を覗き込んだ。

 中は真っ暗で良くみえない。トドのような野太い悲鳴が響いている。何かの機械室だろうか。永戸が目を凝らすとそこにはがたっていた。永戸は恐怖し急いで引き返そうとするも、天井が低くなかなか体勢が戻せない。階段を上がって来る音がする。



 日向は朝食時間が終わっても連絡の付かない永戸に業を煮やしていた。

「すみません。208号室に泊まっていた永戸なんですけど、もうチェックアウトしてますか?」

 受付カウンターは二人でチェックインした時の若い女性であった。

「お客様なら、先程おたちになられましたよ」 

 彼女はそう答えるのみだった。

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