第5話 話の通じない幼女
女の子は銀の薄汚れた
その光景をしばらく眺めて声を掛けようか迷ったけど帰ることにした。
やっぱり俺は人見知りなんだ。
だけど、すぐに花畑の場所を教えて貰うってアイデアを閃いたから女の子に駆け寄って
「その花はルシフェラーゼかい? 引き抜いたら駄目だ。光を失うから」
なんてクールな挨拶をした。
女の子は声を上げずに驚いて、持っていた
「まるでアマガエルのお漏らしみたいじゃないか!」
なんてハリウッド映画のような気の効いた言い回しをしてみたのだけど女の子は泣き出しそうな顔をする。
これには俺も参ってしまった。
兎に人参を与えたけど食べて貰えなかった飼育係の少年みたいな気持ちになって
「花畑の場所を教えて貰いたかっただけなんだ。知らないか?」
なんて在り来りの質問をすると
「お兄さん、だれ?」
なんて質問を返ってきて話が一向に進まない。
これには俺も参ってしまった。
だけど彼女はまだ小さいのだからまともな会話なんて期待しちゃいけない。
「この花壇さ、窒素足りてる?」
「お兄さん、だれ?」
おいおい、会話の基本はキャチボールなのに彼女は一方的にボールを投げつけてくる。
球拾いばかりさせられる高校一年野球部の春みたいな気持ちになって
「俺はマサユキ。記憶喪失のマサユキ」と答えて「君は?」って尋ねた。
「どうやって入ってきたの?」
これまで人と会話したことないのかなって思ってしまうぐらい彼女とは会話が成立しない。
キャッチャーのサインに首を振り続けるピッチャーぐらい対話する気がないんだ。
「樹の隙間から歩いていたらここに辿り着いんだ」
そうはいっても球を投げて貰わないと試合が進まないから質問に答えることにした。
「うそだよ、入れないもん!」
突然嘘つき呼ばわりされてサフィニアだったら殺しているところだ。
「嘘だったら俺はここにいない」
完璧な論破に彼女はうーん、うーんと唸って「でも、でも」なんてごちゃごちゃ言うから地面に落ちた
「何をするの?」
「花に水をやるのさ。しょんべんでもいい」
「やめて! 出すから」
彼女が出すって言うからしょんべんでもするのかと思ったけど、家に立てかけてあったごつごつとした大きな杖を手にとって何やらごにょごにょと唱えると
俺は
「どうしてのむの?」
「しょんべんかもしれないだろ」
「どういうこと?」
こんな風にして彼女とは上手く会話が出来なかった。
そういえば彼女は黒のよれよれのワンピースを着ていたので
「ここにも槍の男が来るのか?」
と花に水を遣りながら尋ねた。
「やりの男ってだれ? だれも来たことないよ。マサユキがはじめて」
「じゃあ、どうして服を着ているんだ?」
「えっー、ふつう、きるよ。マサユキは男の人なのにどうして女の人のかっこうなの?」
「女? おいおい、これは女の格好なのか?」
「えっー、そんなことも知らないの? へんなの」
突然変人呼ばわりされてサフィニアだったら殺しているところだ。
「名前がない君のほうが変だ」
「名前あるもん」
「でも君はさっき名乗らなかったからないのと同じだ」
「……クツア・メイラシ」
「何だ?」
「私の名前はクツア・メイラシ。『さいやくのまじょ』クツア・メイラシ」
こんな風にして彼女とは上手く会話が出来なかった。
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