第20話 加護の力

 バーンと音を立てて私とヨハンは後ろに吹き飛ばされた。 いや、吹き飛ばされたというよりは弾かれたといった方が適切か。


「ぐわっ!」


「ううっ」


 今、何された? 全然分からなかった。 魔法? いやそれにしては予備動作が全くなかった。


「何だ、どうしたお前達私は何もしていないぞ」


 何もしてないない? そんな訳がないだろう。 いや、これは……。


「今のが加護の力ですか?」


 私の問いに団長が不敵に微笑んだ。


「その通りだ、そんな生ぬるい攻撃では私の間合いに入ることすら出来ないぞ!!」

「なら全力を込めるまでですよ」


  加護の力で一定の攻撃は、障壁にはね返されてしまうらしい。 その人の力量によって障壁の硬さは変わるだろうけど……団長の障壁は相当なものだと思う今の一撃で確信した。


 なので私は一撃にすべての魔力を込めることにした。


「ていやぁぁぁぁーー!」


 団長はまた動かなかった。 だが今度は。


 ピキ、ピキピキ、パリーン。


 団長の加護の障壁を打ち破ることができた。 だがそれまでだ。


 打ち破った先に団長の姿はなかった。 私は割れた勢いで前に倒れかかってしまった。


 すぐに体勢を整えて辺りを見渡した。周りを囲んでいる兵士達の姿しか見えない、団長は?


「横だ!!」


 後ろからヨハンの声がした。


 はっきり言うと速すぎた。 魔力を殆ど使い果たし満身創痍な私には迫り来る団長に抵抗する術がなかった。


 横から蹴り飛ばされそのまま壁に激突した。


  「ぐへぇっ」


  加護の力は魔法から身を守るだけじゃない。魔法を使わずとも身体能力が向上するのだ。


 こんな化け物と戦っていたアレン様も十分化け物だ、がふっ。


 私が倒れるのをみたヨハンは打って変わって距離を取り慎重に戦おうとした。


 だがそれが悪かったのだろう。来ないならこっちから行くぞと団長が猛然と向かって来た。


 木刀を頭の上から振り下ろされ、ヨハンはそれを剣で止めたが力の差だろう、ヨハンの腰がどんどん下がっていく。


 ズシズシとヨハンの体が地面に沈んでいく、そしてとうとう耐えきれず地面に叩きつけられた。


 ズバーン!!


「ううっ〜〜〜」


 これでも私とヨハンが意識を保っていられたのは団長がギリギリの所で手加減をしてくれていたからだろう。


「勝者、ドレット・アルヤスカ様」


 審判役が終了の合図を告げると白い看護の制服に身を包んだ救護の人達が私とヨハンに回復魔法をかけてくれた。


回復ヒール


 私の傷はみるみる治ったが、魔力までは戻らないようだ、体は重いし、ふらふらする。


 「アルヤスカお遊びはそこまでにしろ」


 野太い声が聞こえた。 黒いマントを羽織った男性が修練場の柱にもたれかかっている。


 「ブラン! お前も来たのか」


 団長と同じく王国の公爵家で宰相のブラン・ガルディア様だ。


「私はそんな事の為に来たのではない。 それに机の上に溜まっている仕事を片付けてからにしろと言っただろう」


「息抜きも大切だろ、まぁ悪いとは思ってるよ」


「悪いと思っているならしっかりやれ」


 団長は少し残念そうだったが諦めて、みんなに一言告げると城に戻っていった。


 私がぜーぜー言っていると目の前にポーションを持った黒い手が差し出された。


 黒い手袋をつけているようで見上げると宰相が立っていた。


「これは?」

「魔力を回復するポーションだ……飲め」


「ありがとうございます」


  どうやら宰相は私が魔力切れを起こしている気付いてポーションを恵んでくれたらしい。


  ごくごくごく。 美味い。


 飲んだ瞬間に体が軽くなり、目眩も収まった。


 その様子を見届けた宰相は自分の仕事が終わったとばかりに無言で修練場を出て行った。


 他の兵士の方に聞いた所、団長の相手をして私のような犠牲者がよく出るため、宰相がその後始末をしているようだ。


 宰相は医学や薬学に精通していて、特殊なポーションを作れるそうだ。 本人の固有能力が呪なのでその能力の研究過程で作っているらしい。


 そのうち毒入りのポーション作れそうだよね。


 でも毎回毎回、団長の後始末をする姿は粗相をした息子の後始末を嫌々やっているように見えるな。


 私も暫くお父様達に会ってないから会いたいなぁ。


 お父様達に会ったのは冬の休暇以来かぁー。


 今はカノン様の誕生日祝いで忙しいし、それが終わったらカノン様に頼んでみようかな。


 エトは実家に思いをはせながら食堂へと歩いて行った。



  ◇◆◇◆◇



 外ではドレットが立っていてどうやらブランの事を待っていたようだ。


 先に声をかけたのはブランの方だった。


「……ドレット」


  彼はアルヤスカを名前で呼んだ。


「何だ?」


 彼がアルヤスカを名前で呼ぶ時は大抵機嫌が悪い時だ。


「あんまり無闇に加護の力を見せるなと言っただろう。 どこに間者が潜んでいるか分かったもんじゃないんだから。 お前なら普通に戦っても十分な筈だ」


「すまねぇな、後輩達が全力でかかってくる姿をみたら俺もそれに応えないと失礼だなと思っちまったんだ」


「……まったく貴様は」

「いいじゃねえか、それより会談の準備は進んでいるのか?」

 

「あぁしっかり進んでいる、順路も警備もぬかりはない」

「帝国との会談か緊張するぜ」


「お前は今回、近衛騎士団団長として行くのだから仕事は横に立っているだけだから楽だろう。 私は向こうの宰相と話をしなければならない……それよりはマシだ」


 ドレットは神妙な顔でブランを見た。 それにブランは少し驚いた。


  こいつがこんな真面目な顔をするのはいつぶりだろう。 四年前のあの時以来か。


「ブラン! 今回の会談で戦争が終わるかもしれない。そうなったら長い戦争に終止符が打つ事が出来る。ぬかるなよ、まだまだこの国には平和を望まない者がいる」


「分かっている、お前も国王様達の事を頼んだぞ」


「あぁ任せろ。分かってると思うが陛下と王妃様の言動には注意しろよ」


「あぁ、何かあったら私が必ず止める。 今の所は陛下はまだ大丈夫だろう……だが王妃は」


「気にするな誰も予想していなかったんだ、まさか賢者によって守られていた者にも後々影響が出るとはな。 その内俺たちにも出てくるんじゃないか?」


「その時がくれば本当に王国は終わりだろう」


「まぁ、そんな事にさせないのが俺たちの役目だからな」


 白い手袋に白い騎士団の制服で身を包まれたドレットと黒い服に身を包んだブラン、戦友であり宰相のブランに彼は親指を上げてみせた。 それを見たブランはもう何も言わずその代わり足を早めた。


 ドレットも急いでついて行く。


 廊下を白と黒の対照的な二人が肩を並べて歩いて行く。

 

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