俺だけは大丈夫! そう思っていた…… コロンウィルスの恐怖

ぽてたん

第1話 ふと気づくと病院にいた

「本山勝彦様PCR検査で今回も陰性だったので、明日退院して良いですよ。ただし、また再度症状がぶりかえした事例もありますので、必ず2週間は外出せずに自宅待機してください」


「はーい」


 目つきの悪い看護師の説明に軽い感じで返事をする。1ヶ月ほど前に、アルバイト先で頭を打ち、意識が朦朧となり救急車で搬送された。ちょうどその頃引いていた風邪が悪化して肺炎になり、1週間以上意識がなかったらしい。3日程死の淵をさまよったが、その後は順調に回復してきている。携帯の電源も貸してくれなかったために、入院してから部屋のテレビだけが心の友だった。ただ、どのチャンネルもコロンウィルスのことばかりで辟易していた。


 この病院のスタッフはとにかく愛想がなくて目つきが厳しい。優しい看護師さんに囲まれる快適入院生活はどこにあるんだよ!地獄のような日々も今日で終わりだ! 明日退院したら、とりあえずは携帯の充電と美味しいご飯を食べよう。


「今回の病気は指定感染症になっていますので、治療費はほとんどかかりません。待機期間の2週間が過ぎたら保険証をお持ちください。そのときに請求書をお渡しします。いいですか?くれぐれも遊び歩いたりせずに2週間自宅で待機してくださいね」


「はーい」


 退院の手続きをするが、相変わらず目つきが悪い受付だな。向こう側で立ち話をしている受付もこちらを見てヒソヒソ話をしている。なんか感じ悪いがもう退院だし気にしないでいいや。さっさと

家に帰って充電したら、美味しいものを食べに行こう。治療費が浮いた分豪華に一人焼き肉でもいくかな?


 自宅待機?


 知らんがな……


 陰性2回で完璧だろ?


 タクシー乗り場でタクシーを見つけた。マスク姿の運転手が


「お客様どちらまで?この病院からもらった治療証明書を見せてください」


 治療証明書ってなんだ? 病院でもらった資料の中をゴソゴソ探していると、中に治療証明書という紙が一枚はいっていた。


「あったよ! これだ」


「あっ そのままこちらに見せてもらえばいいです。コロンウィルスですね! 残念ですが、タクシー及び公共交通機関には乗ることができません。ここから歩いて10分くらいのところにあるレンタカーを借りられるか、ご自宅からお迎えをお願いします」


「もう陰性2回でクリアしてるから治ってるんだよ、乗せてよ!」


「陰性でもまだ他人に感染させるかもしれないらしいので、退院後2週間経過した人しか乗せられません。特にここのコロン患者にはハイパースプレッダーと呼ばれる患者さんが入院しているらしいので、絶対駄目です」


 タクシーの運転手さんに言い張られ、仕方ないから自宅までの30分くらいの道のりを歩くことを決意した。運動不足だったからリハビリにちょうどいいとおもうかな。


 歩きながら周りの店を見るが、閉まっているお店ばかりで開いている店が少ない。活気がないゴーストタウンのようだな。入院中はコロンの話題を見たく無くてニュースになるとチャンネルを変えていたのであまり詳しい事はわからないが、スーパースプレッダーって言うのは聞いた記憶があるがハイパーは聞いたおぼえが無かったな? 運転手さんの間違いだろうが、そんなに感染させる人があの病院に入院していたんだな、だからこの辺りは外出禁止等で休んでいるんだな。車もあまり走っていなくて、救急車の音が至るところから聞こえる。結構たいへんな事になっているようだけど、夜の街はもう開いているのかな? 久しぶりだし、食事でもしたら、友人達を誘って快気祝いで夜の街にくりだそう。


 久しぶりの歩きで、汗が吹き出してきた。そろそろアパートが見えてくるところまで来たが、何か様子がおかしい…… テレビでみるような黄色い規制線が張られており、マスクをかけ防護服を着た警察官が1人立っていた。


「あのー、なにかここで事件か何かあったんですか? 俺はここに住んでいるんですが、入れないの?」


「あっ、このアパートはコロン感染がひどくて朝消毒をしたところだ。あと10分後に規制は解除されるから、もう少し待ってくれ」


 警察官は何かを取りにパトカーへ歩いて行き、何か探しながら本部とやり取りをしているようだ。10分くらいはそう問題ないが、今まで住んでいた場所にこんなラインを張られたら何か違う場所に来たような気がする。警察官が何か書類を持ってきた。


「もう入って大丈夫だぞ。確認がとれた。念の為どこの誰かを教えてくれ」


「102号の本山です」


 警察官の顔がひきつったように見える


「おまえがあの……いやなんでもない。そうか今日退院だったのか……」


 端切れの悪い言葉を残しパトカーへ向かって歩いて行った。解除されたのであればもう大丈夫だろう。さっさと部屋に入ろう!


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