閑話 呪われた鎧の回顧
そのように人から呼ばれる存在であると認識したのは、いつの頃か。
気が付けばそう呼ばれていた。
人か、魔物か、生者か死者か
そのような疑問を幾度となく繰り返したのはいつの頃か。
己という存在に疑問を持ったのはいつの頃か。
時は流れ、全ては彼にとって些事となった。
その筈だった。
かつては、わざわざそこへ意識を向けずとも、己が何者かなど理解していた気がする。
己を見失ったのは単にこの身の内から吹き出す黒い衝動が故だった。
朧げな記憶にあるのは突如襲ったそれにまずは意識を黒く塗りつぶされた。
次に己を構成するあらゆる全てを歪められた。
そして己の本質すら歪め、食らいつくそうとしたそれに済んでのところで抗った。
だが、跳ね除けるまではならず、その身の内は徐々に蝕まれ、今となっては己の存在が何であったのかすら忘れて久しい。
そうして気がつけば、不毛の地を彷徨っていた。
そこは大層居心地がよく、馴染むのにそう時間はかからなかった。
けれど、己を蝕もうとするそれに抗い続けたのは己の本能なのだろう。
黒い衝動への抗いすら忘れかけていた頃、それは突如として現れた。
腐臭と瘴気を吹き払い、矮小な己に目をこらす。
巨大な蛇の胴に4つの脚。
その頭は蛇のそれではなく、獣に近い。頭部に生える2本の枝分かれしたツノ。
その存在を己は知っている。
遠いどこかで識っていた。
いくつかの呼称が浮かびかけては消える。
そしてようやく拾い上げたそれを音に載せる。
「……りゅう……」
キィ、と喉が軋んだ。
「声」。
それを発したのはいつぶりか。
「ほう、言葉を操る理性は残っておるか。」
じっと己を凝視する存在は可笑しげに笑った。
「常であれば歯牙にもかけぬが感謝せよ。今日の我は非常に機嫌が良い」
リュウは教えてくれた。
己が身を蝕むのはノロイであると。
忘却の魔女と呼ばれる存在を。
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