第77話 バカップル


 弓花と一緒に高校へ通学をする。


 隣を歩く弓花は少し気恥ずかしそうにこちらを見ている。

 何か言いたいことがあるみたいだな……


「ねぇ咲矢、高校卒業したら同棲しない?」


 重い口を開いた弓花は、将来のことを話し始めた。


「二人で暮らすってことか?」


「ええ。だからアルバイトとか今の内からお金貯めないかしら? 二人で一緒に暮らしながら大学通いたい」


 弓花と一緒に同棲か……

 それはもう最高な時間を過ごすことができそうだが、大変なことも多そうだ。


「その予定は無いな」


「……そう」


 今にも泣きそうな目を見せる弓花。

 きっと俺と共に生きる覚悟を決めた上で、勇気を出して聞いてくれたのだろう。


「俺はもっと慎重になりたい」


「そうよね」


「学生でいる間は学業に集中したいし、私生活が大変になって必死に生きていくだけにはなりたくない」


 社会では認められない関係だからこそ、二人で生きるには準備が必要なんだ。


「だから、大学を卒業したら、二人でどこかの離島で暮らさないか? もしくは海外だっていい。何もしがらみを感じないところで過ごそう」


「咲矢……」


「それまでアルバイト続けて二人でたくさんお金貯めような」


「もっ、もう、嬉し過ぎるから!」


 感情を抑えきれなくなった弓花は俺の腕を強く抱きしめてくる。


「愛してるわ」


「どれくらい?」


「測れないくらい」


 今までに見たことないくらい嬉しそうな顔で見つめてくる弓花。

 こんな可愛い彼女がいたら、もう覚悟を決めるしかないだろ。


「大学では英語を専攻しまくりましょう」


「そうだな。そうした方が俺達の将来のプランも増えそうだ」


 誰も俺達のことを知らない海外のどこかで、二人でゆっくり過ごすのも悪くない。


「も~好きすぎる! 一生愛してるから!」


「俺も同じです」


「私の人生はあなたのための人生だから」


「俺の人生も弓花のための人生だからさ」


 俺達は固く手を繋いで、先の見えない不安定な未来へと進むことを決めた。



     ▲



 昼休みになり、俺と弓花と心春の三人でいつも場所へと足を運んだ。


 昼食を食べようとしたのだが、今朝の一件から好き好き目線を送り続けてきている弓花は我慢ができないみたいだ。


「咲矢、愛してるわ」


「お、おい」


 心春が見ているにも関わず熱烈なキスを始める弓花。


「お~素敵」


 誰にも見られてはいけない禁断の関係だからこそ、心春にまじまじと見られているのは少し興奮してしまうな。

 それは双子の弓花も同じなのか、キスに熱がこもっている。


「凄い凄~い!」


 俺達の様子をみている心春も興奮して、凄いと歓声をあげている。


「いけいけ! もっとやれ~!」


 背中を押しまくってくる心春。もっとと言われても、これ以上できることはないのだが……


 弓花は俺を強く抱きしめて、より気持ちを込めてくる。

 俺も弓花に応えるように強く抱きしめた。


「もうやっちゃえよ! 何でやんねーんだよ!」


「うるせー!」


 心春の強過ぎる煽りに、流石にキスを止めて言い返した。


「確かに、何でやらないの?」


 弓花も心春に感化されて俺に聞いてくる。


「やらないんじゃなくて、やれねーんだよ。何がとは言はないが」


「もうギリギリのギリまで来ているわよ」


「まだ一線は越えていない……はず。世間から見たらもう一線越えてんだろって言われるかもしれないが、まだ俺は越えてないと思っている」


 まだ禁断の橋は渡っていないからな。

 確実に片足は踏み込んでしまっているが。


「大丈夫。咲矢はやればできる子よ」


「いやいや、できっこないよ」


「私も上手くできるように手伝うわ。大丈夫だよって、最後まで頑張ろって応援もしてあげるし」


「応援はちょっと嬉しいかも」


 そんな会話をしている俺達を白い目で見ている心春。


「何か文句あるのか?」


「バカップルだね。お互い双子でバカだから究極のバカップルだ」


「……否定はできないな」


 俺と弓花は本当にバカだ。

 報われない恋に本気になって、今が楽しければいいと間違った道を進み続けている。


「人生、バカになった方が楽しいわよ」


 弓花の心のこもったアドバイス。

 実際に、目の前にいる弓花は幸せそうだ。


「あたしもお父さんと一線越えたーい!」


「……あなたも相当なバカね」


 心春の叫びを聞いて呆れる弓花。


 妹の華菜も含め、周りにまともなやつなんて一人もいない。

 そもそもこの世の中にまともな人なんているのだろうか……


 みんな俺と同じ状況に陥れば、まともでなんかいられないはず。


 もういっそのことまともに生きることを諦めて、二度と上がってこれない沼に自分の欲望を突っ込むの悪くないと思えてきた――

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