スッポンの恩返し
いつもなら、
5月は恒例の堀ほりが行われる。
わかりやすく言うと、溝掃除(どぶそうじ)である。
今年は中止になったが、中学の時から、近所のおっちゃんに混ざって参加していた。
長靴をはいて、鍬(くわ)を持って、朝7時に神社に集まる。出欠をとっている。
欠席者は罰金5千円を徴収される。
7時10分ぐらいになると、北と南にわかれて歩き出す。
カン。カン。カン。鍬を杖がわりに歩き出す。
子どもが1人ついてくる。
前夜に息子が
「あした、僕もお父さんといく」
「楽しくないぞ」
「どんなことするのか見たい」
「じゃあ行くか」
「うん」
まあ、すぐに飽きて家に帰ると思っていた。
しかし、予想に反して、ペットボトルのお茶を片手についてくる。
池の近くの溝の泥をあげると中から、何かがぐにゅぐにゅと動いて出てきた。
「なにこれ」
「どじょうや」
2匹、3匹とぐにゅぐにゅ動いている。
「これどうする」
「逃してやろう」
鍬ですくって溝へ帰してやった。
休憩していると、麦わら帽子をかぶったおっちゃんが
「こんなん、おったわ」
スッポンをつかんで持ってきた。息子は興味津々で
「すごい怒ってる、かみつく」
「噛まれたら、はなしよらんで」
「そのうちスッポンが恩返しに来よるわ」
そう言って、おっちゃんはスッポンを川に帰してやった。息子は
「お父さん、スッポン恩返しに来るかな」
そう、つぶやいて最後まで歩いた。
もう遠い思い出のように感じる。
こんな平穏な日を待っている。
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