息子と風になった

先週の日曜日は、


クルマのタイヤがパンクして


結局は公園に行けなかった。


「散歩できなかったから、自転車で探検に行こうよ」


「自転車か?」


「駄菓子屋さんがあった場所、教えてよ」


その言葉で、行く気になった。


子どもの頃、通った駄菓子屋。


いまは、もうない。


私が小学生時代に過ごした日々を、小学生の息子とたどる。


あまり乗り気ではなかったのに、少しワクワクしてきた。


息子は自転車に乗れるようになって、世界がひろがった。


どこまでも、どこまでも遠くへ行ける。


「しゅっぱーつ」


張り切って息子はスタートした。


「お父さん、前行って」


息子の横をすり抜けて、ペダルをこぐ。


旧家の細道を曲がりながら、駄菓子屋があった場所へ。


「ここにあたんや」


「ふーん、家が建ってるね」


友達とうまい棒をかじって、チェリオを飲んだ。


「どんどん焼き、スルメ、アイスの王将も食べたなぁ」


そんなことを思い出しながら、ペダルをこぎ続けた。


野球をした宮さん、小学校までの通学路を走った。


「ここの公園も閉鎖か」


小学校近くの公園を横目に、


チャリンコ軍団はすすんだ。


自動販売機でジュースを買って


池のベンチで休憩した。


「疲れてないか?」


「ぜんぜん疲れない」


二人で池を眺めていた。


「楽しいね」


「そうか、よかった」


「さあ、帰るか?」


「うん」


チャリンコにまたがって走る。


下り坂に近づいた。


「気をつけろ」


「うん」


「さあ、行くぞ」


「あー」


少しビビリながらも、


息子はうれしそうに笑っていた。


二人とも風を感じていた。


風は


あの頃と同じだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る