第12話 超新鮮水産株式会社

 ”…我は爆炎を司るギターなり!…”

 ”…我は豪雷を司るマイクなり!…”

 ”…我は大地を司るスネアなり!…”

 ”…我は水激を司るクリップチュ

「うるさい!!」


 先日、ト○ジャーファクトリーにて購入した中古楽器はそれぞれ意思を持っており、都度頭に語りかけてくる。マジでノイローゼになりそうだわ。


「皆サン!帰リマシタ!今日ハ”暴風ヲ司ルスティック”ヲ買ッテキマシタヨ!」


”…我は暴風を司るスティックなり!…”


 カワ島は毎日、マグロ爺の見舞いに行っており、その度に”ト○ジャーファクトリー”に寄っては”司るシリーズ”を買ってくる。これまでに ”極光を司るシールド” ”狂闇を司るマイクスタンド” を買ってきた。もうマジでやめて欲しい。


 楽器を購入出来たのは良いものの、買った事に満足してしまい未だに弾いていない。と言うかこの”バケモノ”弦が張ってないのでそもそも弾けないのだ。あ、”バケモノ”とはこのギターの名前だ。パーツの寄せ合わせ感が凄いのでそうした。


 また現在、曲を作るより生活費をどうするか頭を悩ませている。もはや数千円しか手持ちが無い。その中でカワ島の散財はマジでムカつく。


 手っ取り早くバイトでも探そうとサイトを見ているとカワ島が口を開いた。


「ア、ソウダ、マグロ爺ガ困ッタラココニ来イッテ言ッテマシタ」


 そうして差し出してきたのは一枚の名刺。


「超新鮮水産株式会社?」


 

 翌日、俺達はその名刺に書かれている住所を訪れた。


「ここが有名なクジラ市場か!」


 クジラ市場 そこは全国から水産物、青果物が集まり取引される巨大な卸売市場である。イカがターレにタコを乗せ運搬していたり、スズキがオジサンのせりで叫んでいたり、場内はとても活気に溢れている。

 

 そして俺達は動物ごみを縫うように進み、超新鮮水産(株)を目指す。


 数分後、忙しなく働く見覚えのあるマグロがいるのが目に入って来た。


「おーーーーい、爺〜」

「・・・ん?おお!お前ら!よく来たな!」

「モウ働イテ大丈夫ナンデスカ?」

「あったりめえよ!おめぇが毎日来てくれてお陰もあるけどよ、マグロ上、休んでいたら死んじまうからな!」

「まぁ!よかったな!エメラルドソードの件は許さねぇけどよ!」

「元気が一番」


 実はマグロ爺、本日退院したばかりだと言う。にも関わらず、こうして場に立っているのは止まれないマグロの性か。また驚いた事にマグロ爺、この”超新鮮水産”の社長だという。

これはたかるチャンスだ、擦り寄ってみようではないか…


「社長、実は私達…先日のエメラルドソード事件の一件でスカンピンになり、明日をどう生きていけば良いのかも分からない…そんな状況なのです…こうなってしまった原因は社長にもありますし、どうか私達を助けて下さい」

「そうか…やっぱりな。実はあの後、ワシも罪悪感があってなできる事なら力になりてぇと思っていて呼んだのよ」

「本当か!?それじゃ!」

「おおよ!お前ら4匹をここで働かせてやる!」

「は?」


 思惑は道を外れ、しばし思考が停止した。


「マジかよ!?爺!?」

「コレデ僕ラモ”ニート”カラ卒業デスネ!!」

「やったぜ」


 3匹はマグロの話し言葉の船に乗り掛かっているので急ぎ召集し、マグロ爺から少し離れて説得した。


「おいおい、この場合”バイトをする”じゃなくて”現金貰う”だろ。それでおさらばでいいだろ?」

「あ、そうか。けどな〜…考えてみろよ。ここでバイトしてりゃ、売り残り貰えるかも知れないし酒のアテはもとい、日々の食は困らないんじゃね?」

「オ金ダケを貰ウノハ簡単デス。ケド、コレカラノ自分達ノ為ニハナラナイト思イマス」

「考えが甘い。賭けに負け財産を失った責任は最終的に我々にある。そもそもそれをマグロのせいにして現金差し出すと思うか?」


 くっ…こいつら何でこういう時に正論かまして来るんだよ。数週間前まで死のうとしてた奴らが偉ぶりやがって。


「どうだ!?お前達!?」


 マグロ爺の問い掛けに俺は少し悩んだが3匹はもうこの船に乗船してしまっている。そして俺達は応えた。


「よ、宜しくお願いします」

「働いてやるよ!爺!」

「オ世話ニナリマス!」

「働かざる者食うべからず」


 それを聞いたマグロ爺は大いに喜んだ。


「そうだ、因みになお前らに頼みたい仕事は主にこれを沢山運んでもらう事だ!」


 そう言うとマグロ爺は奥からそれをターレに乗せて持ってきた。


 ”冷凍マグロ”だった。


 俺達は切ない気持ちになった。

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