第39話冒険者殲滅戦――<仕置き3 弓使い>
「なっ……こ、これは!?」
倒れるヘビーガ、ジェガ、イルスを見てフォーミュラは驚きを隠しきれない様子だった。
そんな彼を庇うように弓使いの女マリーが立ち塞がる。
襲来した冒険者の中では最強にして最悪。勇者の肩書を得て、Sランクにまで上り詰めた【魔法剣士のフォーミュラ=シールエット】
そして彼の今の“女”である【Aランク弓使いのマリー】
この二人を倒さねば、樹海を守る戦いは終らない。
しかし、SとAのコンビの前では、正直なところ今のクルスとラフレシアだけでは手に余る。
それはラフレシア自身も肌で感じているのか、緊張の面持ちを崩さない。
「クルス、どうする? 何か考えはあるの?」
「ベラとマタンゴの到着を待とう。それまで互いに持ち堪える」
「そうね、それが良いわね」
ラフレシアは緊張を振り払うかのように、棘の鞭で地面を打った
「ならば私は魔法剣士を! 貴方は弓使いをお願い!」
「了解だ!」
ラフレシアは突撃を開始し、クルスは素早く矢を射る。
ほぼ同時にマリーも矢を射り、聖剣を構えたフォーミュラが突っ込んできた。
「セシリー嬢! なんで貴方が魔物の味方をするんだ!?」
「さっきからみんな何で私のことをセシリーと呼ぶのかしら? 意味が分かんないわねっ!」
ラフレシアは忌々しげに棘の鞭で、フォーミュラの聖剣を弾き飛ばす。
「まぁ良い。生きてても、死んでても、君を持ちかえれば依頼は達成になるってなぁ!」
フォーミュラの鋭い横なぎを、ラフレシアは寸でところで跳躍し回避した。ずっと余裕だったラフレシアの顔へ初めて歪みが生じた瞬間だった。
「
フォーミュラは魔法剣士らしく、魔法を聖剣へ付与した。
Sランクの昇段要件である“光属性魔法”
「どうした、どうした、セシリー嬢! さっきまでの威勢はどこへいったぁ!」
ラフレシアの棘の鞭が輝く聖剣をいなす度に、焦げの匂いを上げる。
「あっ!?」
棘の鞭は、光属性の力に耐えられなくなりとうとう焼き切れ、ラフレシアに隙が生じる。
そんな彼女の腹へ高速詠唱を終えたフォーミュラは掌を当てていた。
「
「ッ――!?」
フォーミュラ手から荘厳な輝きが、爆発を伴って発せられる。
魔法を至近距離から浴びたラフレシアは盛大に吹っ飛んだ。しかし地面すれすれのところで身を捻り、見事な着地をしてみせた。
「へえ、俺の魔法を浴びて生きているなんて。もしや今の君は既に魔物なのかな?」
「くっ……そ、そうよ! 私はラフレシア! 樹海の守護者! アンタなんかに負けてたまるかぁ――!!」
ラフレシアは袖から鋭い刃の付いた種を放つ。
しかしその種さえも、フォーミュラに近づくだけで、光属性の力で焼かれてしまう。
相手の間接攻撃を光属性の力で焼き尽くす“
圧倒的な攻撃力と防御力を備えた驚異の勇者フォーミュラ=シールエット。
それでもラフレシアは再び棘の鞭を握り締め、果敢にもフォーミュラへ挑んでゆく。
そんなラフレシアとフォーミュラの対決を、クルスは樹上から息を潜めて見ていた。できることならラフレシアの応援に回りたい。
しかし彼は彼とて、自らの身を守ることで手一杯だった。
Aランク弓使いのマリー ―― この女とは一度だけ顔を合わせただけでどんな人間なのか良く分からなかった。しかしフォーミュラと共にビギナを殺そうとしていたこと。なによりもこの女が放つ不気味な“気配”は見逃してはいけないものだと直感していた。
樹上のクルスは必死に息をひそめて、周囲の様子へ神経を張り巡らせる。
わずかに向こうの木が不自然に揺れ、思わず矢を撃ち込んだ。しかし手ごたえは無し。
代わりに別の角度からクルスを狙って矢が飛来する。間一髪、短剣で切払って、次の枝へ飛び移り事なき終える。
切払った矢の鏃は火属性の魔法が付与されているのか真っ赤に発光し、激しい熱を帯びていた。
さっきからこの繰り返しばかりであった。
これが同じ
ならばここで諦めるか。敵わないからと尻尾をまいて逃げるか――答えは勿論、否。
ロナやラフレシア達のためもある。今、自分が住処としている樹海を守りたいという気持もある。しかし、それらはクルスにとっては後付けの論理でしかない。
自分を辱め、あまつさえビギナを深く傷つけたフォーミュラを許すわけには行かない。
そしてマリーも、フォーミュラに加担し、ビギナの殺害を企てていた。
許してはならない。許すべきではない。
そうは思えど、現状、一人でマリーを倒すのは至難の業である。
「ちっ!」
今度は複数の矢が四方八方から飛来する。いくらかは切払うことができた。それでも数本が腕や、背中に突き刺さった。
付与された火属性魔法が木の装備を焦がし、その先にある肉を焼く。
痛みが酷く、仮面の裏が苦悶で歪む。
しかしまだ致命傷は貰ってはいない。まだ動ける。まだ大丈夫。ならば体力と精神力が続く限り、マリーを引き付ける。
来るべき時を待ち続ける。それ以外に勝機は無い。
(持ってくれよ、俺の身体……!)
その時、クルスの足元へにゅるりとロナの蔦が伸びてくる。
蔦はクルスのつま先を、執拗に何回も叩く。
(来たか!)
ロナの合図で、クルスは“その時”が来たのだと判断した。
そして一切に雑念を払しょくし、弓を握った。
全神経を注いで、樹上のどこかに潜んでいるマリーの気配を探る。
風で枝葉が揺れざわめく。その中に潜む不自然な一点を感じ取った。
クルスはその一点からやや先へ、矢を鋭く撃ち込む。
「くっ――!?」
「ツッ――!!」
マリーの声が聞こえるのと同時に、クルスの肩へマリーの矢が突き刺さる。
クルスは隠れ潜んでいた樹上から地面へ転げ落ちる。
ほぼ同時にマリーもまた地面へ落下してきた。
「やるな化け物……!」
マリーは太ももに突き刺さったクルスの矢を抜きつつ立ち上がる。
対するクルスは地面に突っ伏したままでいた。
「お前はいったい何者だ? まさか我が同胞か? トリア様やフラン様に仕え御方の復活を願う同志なのか?」
マリーは訳の分からないことを言いながら近づいてくる。勝利を確信しているのか、明らかに油断している様子だった。
その時地面が僅かに揺れた。そしてクルスとマリーの間に激しい砂柱が上がった。
「ベラ! バインドボイスだ!」
「おう! まっかせるのだぁ! しゅこー!」
地面深くから飛び出してきた、仮面を被ったマンドラゴラのベラは、マリーの頭上を押さえる。
「どっせぇぇぇぇぇーーいッ!! しゅこー!」
地中から飛び出したマンドラゴラの童女:ベラは相手を
「ぐ、ああああっ!!」
頭上からバインドボイスの直撃を受けたマリーは頭を抱えながらその場へ立ちすくむ。
しかし“状態異常耐性”のあるクルスは平然と飛び起きた。
クルスは肩に突き刺さった矢を抜く。零れ落ちた血を短剣へべっとりと塗り込む。
そしてマリーの腹を激しく、深く切りつけた。
「さっきの問いに答えてやろう。俺は樹海の守護者の一人!
「ト、
マリーは血を零しながら倒れた。四肢が痙攣を起こし、地面の上を不規則にのたうち回る。
どうやらクルスの血にしみ込ませた麻痺毒の効果が発揮されたらしい。
「お前には特別に多量の麻痺毒を注がせてもらった。毒は四肢を麻痺させるばかりか、やがて内蔵さえも痺れさせ死に至るだろう。運が良ければ生を繋げる可能性はあるがな」
「あっ、ぐ、あああ……!」
「お前たちの目的など興味はない。しかし! お前はフォーミュラと共にビギナへ手をかけた。彼女を深く傷つけ、命を奪おうとした。これはその罰だ。せいぜい自分の生命力を信じて這いつくばると良い!」
「マリーッ!!」
「きゃっ!!」
フォーミュラはラフレシアを聖剣で突き飛ばし、無我夢中で駆けてくる。
「カハッ!」
「ぐわっ!?」
しかしファーミュラは横から僅かに青みがかった“靄の砲弾”が放たれ吹き飛ばされた。
「あっ……! あひゅ――!?」
起き上がったフォーミュラの喉から出たのは、情けない“かすれ声”であった。
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