第14話待つアルラウネ(*マンドラゴラ視点)


(無防備なねえさまは可愛いのだ)


 アルラウネのところへ戻った眷属のマンドラゴラはそう思った。

 眷属、というよりも、人間でいうところの家族のような。マンドラゴラはアルラウネへそんな感情を持ち合わせているのである。


「すぅー……すぅ……人間さぁん……」

 

 うららかな日差しの中で、姉のような親しみを覚えているアルラウネはゆらゆらと身体を揺らしながら眠りに耽ている。

 なんとも穏やかで、そして無防備な様子はみているだけで、胸の内がほっこりしてしまう。

 しかし気に食わない部分もあった。


(なんでさっき甘い声で“人間”なんて呟いてたのだ。あの雄の人間の何が良いのだ?)


 人間など自分たち魔物にとっては敵や餌以上の価値なんてない筈。しかしアルラウネは随分と、バインドボイスや毒の聞かない雄の人間にご執心な様子。

 何がそんなに姉のことを惹きつけているのか分からず、マンドラゴラをは首をかしげる。


「すぅー……すぅ……ハッ!」


 その時、アルラウネは突然目を覚ました。すぐさま青い瞳を空に上げる。素早く地面を割って無数の蔓(つる)を出現させると、それを空へ向けて放つ。


「ぐえぇっ! ぐええええっ……!」


 蔓に捕らわれたのは、森の上を飛行していた鳥型の魔物だった。

 ぎりぎりと蔓が締り、くちばしから泡を吹き始める。やがて翼が力を失って、蔓によって地面へ引かれてゆくのだった。


「やった! 獲れたっ! ふふ!」


 アルラウネは捕まえた鳥型魔物の死骸をみて、興奮した様子を見せる。こんなに嬉しそうなアルラウネを見るのは初めてなマンドラゴラだった。


「ねえ様、動物なんて捕まえてなにしてるのだ?」

「わわっ!!」


 マンドラゴラが話しかけると掛けると、すっかり自分の世界に浸っていたアルラウネは、素っ頓狂な声を上げる。どうやら近くにマンドラゴラがいることに、まったく気づいていなかったらしい。


「いきなり声をかけないでよ! びっくりしちゃったよ!」

「ごめんなのだ。で、なんで捕まえたのだ? 鳥なんて食べたか?」

「私のじゃないよ。人間さんのだよ」

「にんげん?」

「ほら、今朝ずっと跡を追いかけていた。今日も来てくれるかなぁって――ッ!!」


 アルラウネは再び空へ視線を移す。同時に蔓が空を飛ぶ鳥型魔物を狙う。しかし蔓は空振り、鳥型魔物はそのまま飛び去って行った。


「あーもう、惜しい!」


 アルラウネは本当に悔しそうにそう言った。

 マンドラゴラは益々アルラウネが何を考えているのか分からなくなった。


「たべるのか?」

「えっ?」

「あの人間を今日たべるのか? だから魔物の死骸で誘おうと考えているのか?」


 何故かアルラウネは「そんなことしないよー」と言いながら苦笑いを浮かべる。


「じゃあなんなのだ?」

「あの方に食べて頂きたいなって。で、その間に色んなお話を聞かせて欲しいなってただそれだけ!」

「んー?」


 やっぱりアルラウネの考えていることがマンドラゴラには良くわからなかった。


 しかし、


(お昼寝の時みたいにねえさまうれしそうなのだ)


 アルラウネの真意は分からない。だけど今の状況を心の底から楽しんでいるのははっきりとわかった。

 あの人間の話をしている時のアルラウネの表情が、とても柔らかくて、可愛いと思った。

 人間のことは気に食わないが、こうして姉のように感じるアルラウネが喜んでいることをマンドラゴラは心の底から嬉しいと思う。


(良くわからないけど……ねえ様の嬉しいは僕の嬉しいでもあるのだ)


 眷属よりも家族的な感情を持ち合わせているマンドラゴラとアルラウネの関係性。

 マンドラゴラ自身も、僅かに人間クルスに興味を抱くのだった。




*短い箇所なので更新しました。

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