第44話 ここは日本
翌日の金曜日、オンライン小説部のみんなでプチパーティーを開いた。
と言っても盛大に部室でパーティーをするわけにもいかないので、本当にプチだ。
浅野も相坂さんが声を担当したということで、ゲームをダウンロードしていた。
俺は昨日お風呂に入ってからチュートリアルを進め、無償のチケットでガチャに挑んだ。
そして相坂さんの担当したSRキャラが出ないという結果だったため、俺はリセマラをした。
相坂さんが出演したから始めるのに、その相坂さんのキャラがいないなんて言えない。
だけど二回目で出たのでなんとか無事に、相坂さんに報告することができた。
やっぱり自分が声を担当したキャラを使ってもらえるのはうれしかったみたいで、相坂さんは本当にうれしそうにしていた。
ゲーム内でもみんなでフレンド登録をしたのだが、一番レベルが高かったのは三樹。
相坂さんはこのゲームに声をあてることが決まってから始めたらしく、三樹のほうがキャラの育成など含めて進んでいるようだった。
二時間程お祝いをした帰りの駅での別れ際、浅野が寄って来た。
耳元に口を近づけて……。
「明日、楽しみにしてます」
浅野と相坂さんは小さく手を振ってから、俺と三樹とは逆方向のホームへ向かう。
三樹は俺の少し前を先に歩いてホームへと降りていく。
俺はその後ろ姿を見て、渡辺先生が昨日言っていたことを思い出していた。
三樹は、俺がいたから桜花高校に来たのか?
俺に会うために?
自分から連絡を絶っておきながら、なんて都合のいい考えなんだと思う。
電車はあっという間に地元の駅に着き、俺と三樹は駅を出た。
「真辺君、待っていてあげるから自転車取ってきていいよ」
「ん? なんかあった?」
「それは真辺君でしょ? さっきからなにか言いたそうに、チラチラ見てきていたでしょ?
それとも、やっぱり三樹は可愛いなぁとか思って見惚れてた?」
「そんなんじゃない。ちょっと行ってくる」
俺は昨日から停めっぱなしにしていた自転車を取って、三樹のところに戻った。
三樹と俺のカバンを籠に入れ、自転車を押しながら歩く。
「それで? デートでどこに行ったらいいのかとかの相談?」
やっぱりさっきの考えは都合がいい考えだと思う。
こんなことを言ってくる三樹が、俺に会いに来るなんてあるわけがない。
「いや、どうして三樹さんは桜花高校に転入したのかと思ってさ。
この前のテストの順位からしても、相変わらず勉強はできるようだし」
三樹が俺の方を見たけど、三樹の表情から読み取れるものはなかった。
「真辺君だって八位だったじゃない? 十分な成績だと思うけど?」
「俺は中学で一時学力が落ちてたから、桜花高校が精一杯だったんだよ。
でも三樹なら、他にも偏差値が高い高校とかも選べたんじゃないか?」
「それは確かにそう」
やっぱりという感じだ。他の高校だって選択肢にあった。
「近いからよ」
「ん?」
「桜花高校が一番近かったから。学歴の話なら、最終的には大学の名前がすべて。
それまでの学歴なんてあってないようなものよ。
だから家から近いところにしただけ」
「三樹がそんな理由で選ぶなんて意外だった」
「そう? 通学の時間も毎日になれば大きいわ」
「それは確かに」
「――! …………」
「これくらい向こうじゃ普通よ。
そんなこと考えるくらいなら、デートのプランでも考えてあげたほうがいいよ。
じゃぁね。おやすみなさい」
俺は別れの挨拶を口に出すことができなかった。
頭が真っ白になってしまった。
三樹は何事もなかったように、振り返ることもなく別れ道を曲がっていった。
「ここはフランスじゃないよ」
自転車を押していたこともあったし、いきなり頬にキスをされるなんて思っていなかったからなにも反応できなかった。
別れ道からの帰路で、俺はまた考えさせられることになった。
今の俺には、三樹のことがわからない。
高校は近いから。キスは向こうでは普通。
三樹と付き合っていたのは前だし、俺は海外に行ったことがない。
もし、俺たちがまだ付き合っていたら、今の三樹のことが少しはわかったのだろうか?
そのあと、家に戻ってから相坂さんが電話をしてきた。
「クレープはみんなで行ってしまいましたから、ま、真辺君のお家に……行ってみたいです」
「家に?」
「はい……。前回は私のお家に招待させていただいたので、わ、私も真辺君のお部屋に行ってみたいなって。ダメ、ですか?」
確かに前回は相坂さんの家に行かせてもらっていたので、家はダメなんて言えるわけもなかった。
こうして土曜日は浅野、日曜日は相坂さんと会うことになった。
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