イジメられてスクールカースト最下位だった俺に、前に付き合っていた元カノが現れた

粋(スイ)

第1話 最底辺

 高校に入って初めてのクラス替え。俺は自分の名前を確認し、その場をすぐに離れる。

 周囲では女子が騒がしくしていた。男子も女子程ではないが似たような感じ。

 誰と同じクラスになったのか、誰と離れてしまったのかなどで感情が忙しいのだろう。

 二年目の下駄箱に向かい、出席番号を確認して靴を履き替える。


 また新しいクラスの人間関係……。


 俺は自分以外の名前の確認をしなかった。

 誰が一緒のクラスであっても、俺にはなにも変わらない。

 スクールカースト、最下位の俺が変わることなどありはしない。


 俺の席は窓側に近く、一番うしろに席があった。

 席に座り、タブレットを起動して読書。

 これもいつものこと。基本的に誰かと話すことなどない。

 結果、休み時間を潰すのに学校でできることで、一番よかったのが読書だっただけ。


 教室は新しいクラスの生徒たちで賑わっている。

 中には他所のクラスから別れを惜しんで来ている生徒たちもいた。



「ねぇ、見た? 転校生くるっぽいよ?」


「見た見た! 女子なんだよね」



 話し声が聞こえてくるが、俺はタブレットに意識を向けるようにする。

 だがそうもいかなくなってしまった。



真辺まなべじゃん。お前と一緒とか最悪なんだけど」



 俺が学校で話すときなど、殆どこんなことだ。

 とはいえ、こんな言葉に返答できるような言葉を持ち合わせてはいない。

 その結果、俺はなにも言えない。



「無視かよ!」



 机の脚を蹴られ、机が元あった場所から大きくズレてしまう。

 それを俺は無言で直す他にない。

 なにかを言っても、次のことが起こるだけなのだ。


 学校にはスクールカーストが存在し、それはクラスのカーストから学年のカーストまである。

 学年のカースト上位は、クラスカースト上位グループが集まったグループだ。

 これはあとで調べてみて気づいたことだが、俺は中学の半ばまで学年のカースト上位だったと思う。

 だけど、ある日を切っ掛けにそれは変わった。



 ある日学校へ行くと、周囲は一変していた。

 今まで一緒に登校していた友達、同じグループで話していた友達が俺のことを無視する。

 朝の登校時間、学年で上位のスクールカーストグループが俺のクラスに来て、トイレへ連れて行かれた。



「真辺さぁ、新田ニッタ君の好きな人言いふらしてるって本当?」


「なんのこと?」



 このとき、無視の原因がこの質問なんだとわかった。

 先日このグループで集まって焼肉に行ったときに、みんなで可愛い女子、タイプの女子の話をしたのは憶えている。

 だけどそれを誰かに話すようなことはない。

 そもそも話すグループも今目の前にいるわけで、みんなが知っている内容。

 だがその日以来、俺はスクールカースト底辺中の底辺。

 最底辺でいじめを受けることになった。


 直接なにかを言ってくることは少ない。

 だが俺に聞こえるように罵倒をしてくる。

 登下校で鉢合わせると、俺のすぐ後ろについて嫌味を吐く。


 中学では休みがちになりながらも、なんとか卒業した。

 高校にもなんとか進学できた。だけど高校でも俺の生活は変わらなかった。

 当然同じ中学の生徒がいるのだ。

 スクールカースト上位だった奴が、高校でも俺を同じような環境にした。

 中学のときとは違い、いじめの理由は俺がボッチだった。

 登校拒否気味だったというものに変わってはいたが……。



「なにも言えないのかよ」



 吐き捨てるように小松が離れていく。

 小松 ヒサシは身長がけっこう低く、たぶん一六〇センチくらいだ。

 不良というわけではない。サッカー部に所属している普通の生徒だ。

 だが学年のスクールカーストで、男子の中ではたぶん頂点にいる生徒。

 クラス替えで、どうしてよりによってこんなのと一緒になるのか……。



「うわっ。マジで真辺いるし……」



 尾池オチ 智則が教室に入ってきて、小松に第一声で声をかける。

 高校に入って俺のことを広めた奴だ。

 尾池は中学でもどちらかというと、カースト上位というより中位に近い奴だった。

 だがとにかく目立つグループにいたいのか、中学でも俺が言いふらしているという根も葉もないことを言って人間関係をグチャグチャにした奴だ。


 当時尾池には問い詰め、白状させたことがある。

 殴り合いにまでいってもよかった状況ではあったが、俺はそれをしなかった。

 友達だと思っていたみんなが、全員が無視して嫌味を言ってくる。

 尾池に問い詰めたときには数日が経ってしまっていて、その間に俺は疲れてしまっていた。

 俺の話も聞いてくれないような奴ら、最初から友達などではない。

 そう思ってしまった。


 カースト上位に目をつけられているそんな俺に、話しかけてくる生徒などいるはずがない。

 カースト上位を敵に回すということは、その他の人間関係もなくなるということだった……。

 そしてそれは、高校でも変わらない。

 そんな学校生活をしていたら、一人でいるのが当たり前になっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る