第24話 常識だよ?
最近良く絡まれる。
この制服を着ているせいでお坊ちゃんだと思われているからなのか、とも思ったが、絡まれる相手からは尽く俺に恨みを持っているような雰囲気を感じるし、此方には全く心当たりがないから、面倒な事この上ない。
「おい、このカス。てめぇ調子に乗ってんじゃねえぞ?」
目の前にいるのは180cmは越えているだろう男で、何処かの制服を着ている事から高校生だと言うのは分かるが、見覚えはない。
「調子に乗ってるって、俺あんたになんかしたか?」
今日はたまたま一人だからいいが、最近良く一緒にいる大和がいたら、巻き込んで悪いと思っていただろう。
男の背後には三人の同じ制服を着た男がいるが、どいつもこいつも俺に敵意を剥き出し。
いや、一人だけ俯いているのがいるが、あれは…
「あれぇ?先輩じゃないですかぁ?」
そいつだけは見覚えがある。
中学の先輩だ。
あ〜、なるほど。
所謂お礼参りって感じかな?
「や、山口!お、俺は関係ないから!」
俺が気付いた事で慌て、先輩はそそくさと去って行った。
残るはリーダー的な大男と、後ろにいる二人だけ。
「あぁ?ったく、さっきからなんでこんな奴にビビってんだ?」
去って行った先輩を訝しげに見送り、大男は俺に近づいてくる。
「ちょっとツラ貸せよ?な?」
肩を組まれ、そう凄まれた俺は、男に促されるまま、路地に入り込んだ。
はぁ〜〜〜。めんどい…
折角高校生になってから友達も出来て、楽しい高校生活を送れると思っていたのに、なんでこんな事になってんだよ。
滑り出しは順調だったんだ。
入学早々面白い友達が出来て、まぁこいつが頭が良いバカなんたけど、顔が良いから既に何度か告白されたりしていて、俺はそれを冷やかしたりしていた訳だ。
付き合いを断られていく女達は考えた。
先ずは外堀から埋めていこうと。
大和と一番仲良くしている俺に、女達は話しかけてくるようになり、何故か知らんが、その中の一人が俺に告白をして来た。
大和と付き合いたいならそれは悪手じゃないか?と思いながら、中々可愛い、いや相当可愛いその子の告白は、当然お断りをした。
『山口結月君!私とお付き合いしてくりゃしゃい!』
あ、噛んだ。
恥ずかしそうに頬を染める彼女は、その可愛らしい容姿と相まって、とても魅力的ではあったが、大和目当ての女と付き合うなんて道化を演じる気は更々ないわけで…
『あのさ、そういう手を使うのはよくねぇぞ?大和には黙っとくから、直接ぶつかれよ。な?』
『え?ちょっ…結月君?』
この子は次の日からも、めげなかった。
休み時間になれば俺と大和の話に混じろうとするし、何だかんだで大和とも顔見知り位にはなれたんじゃなかろうか。
彼女の名前は
黒髪ロングのお嬢様風で、少しタレ目のおっとりとした女の子だ。
俺と大和が名前で呼びあっていたから、自分も名前で読んで欲しいと言われ、未来と呼んでいる。
中学の頃からの友達が二人いて、未来の取り巻きみたいにいつも一緒に行動をしていた。
話してみると結構なお嬢様で、一週間のうち水曜日だけが空いていて、他の曜日は何かしら習い事をしていると言う。
そんな状態で、付き合うなんて無理じゃねえか。
いい所仲の良い友達位にしかならないだろうが、まぁ可愛い女の子と知り合いなのは悪い気がしないし、俺達の所にと言うか、大和の所に来るのは拒否をしていない。
「おい。」
健気に頑張っているようにも見えるし、害はないからな。
そう言えば、家の親はまた何処かに出張していて、毎日連絡はあるんだが、父さんが笑ってたな。
「お、おい!結月!」
大和の親父さんと同級生だった父さんも、俺と大和みたいな関係だったと。
大和があれだけイケメンなんだから、親父さんもイケメンなんだろう。
お前の気持ちは分かると、そんな事を…
「結月!やめろ!」
おっと、思考に没頭していたようだ。
急に肩を捕まれ、そう言えば絡まれているんだったと思い出す。
「あ”ぁ”!?」
思わず肩を掴んできた相手を睨みつけると、それは知った顔だった。
「あれ?ヤッさんじゃん?」
「そうだよ!俺だよ!やり過ぎだ馬鹿野郎!」
何がやり過ぎだと言うのか。
ふと周りを見回すと、血塗れで倒れている俺に絡んできた三人がいる。
三人は何故か下半身丸出しで気絶をしていた。
「あれ?何コレ?」
本気で驚いていると、ヤッさんは深い溜息をついた。
「お前、これ片手間でやったのか?おっそろしいやつだな。姉さんが欲しがる訳だぜ。」
ヤッさんが言う姉さんと言うのは、龍華ちゃんの事だろう。
龍華ちゃんの手下その一。それがヤッさんだ。
何やかんやあって、顔見知りになった。
「いやぁ〜考え事してたから、防衛本能的な?アレが働いたんじゃねぇの?…っと、あったあった。」
「お前って奴は…何ナチュラルに懐探ってんだよ。」
「え?だってさ、急に襲われたんだから、もう襲う気にはなれない程のネタでも探って、恐怖を刻み込まないとダメだろ?常識だぞ、ヤッさん?」
ヤッさんは引き攣った顔をしている。
血の海に沈んでいる男よりも余程大柄で、如何にもな顔をしているヤッさんが、そんな常識も知らないなんて呆れてしまう。
「いやいや、お前にそんな顔をされる覚えがない。いいか?そんな常識は、この世にないんだぞ?ヤ○ザかお前は。」
こっちこそ、半分以上ヤ○ザのヤッさんにそんな事言われる覚えはない。
俺は奴らのスマホを懐から探し当て、ロックを外そうと頑張ってみる。
どうやら指紋認証らしいから、血塗れで汚い男達の手を、何故か脱ぎ捨てられているズボンで拭き取り、ロックを外した。
アドレスを開くと、さっき居た先輩の名前があったので、通話をしてみた。
男のスマホからかかって来たのに俺が話し始めたもので、相当焦っていたが、少しお話をしたら、男達の事を話してくれて、共通のお友達のメッセージアプリのIDを教えてくれたので、それを自分のアプリに登録した。
男の友達ですってメッセージを送り、相手にも登録させて、暫くは放置だな。
俺のスマホから男達のアプリに、本人が下半身丸出しで白目を向き、ダブルピースしている姿の画像を送り、次襲ってきたらばら撒くぞと、親切に説明のメッセージを送ってあげた。
「これで、よし!」
「よし、じゃねーよ。お前さ、やっぱりウチに入れよ。」
ウチって黒蜥蜴だろ?
やなこった。
「ごめんな?俺、普通の高校生だから無理だ。」
ヤッさんは呆れたような笑いを浮かべ、男達の手当はしてやるから、さっさと行けと言ってくれたので、任せて帰ることにした。
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