第2話 壁

 冷静になったハルカは、辺りを観察することにした。


 壁の先まで歩き、手を付きながら壁伝いに部屋の端を測りながら、部屋を一周する。


「ウチのリビングより広い感じ?」広さにして10畳以上の空間だろうか。


 天井を見上げる。


「やっベー、わかんねぇわ」


 部屋が白いこともあって、どれくらいの高さがあるか分からない。

 手を挙げてジャンプしてみたが、少なくともハルカの手は天井に届かなかった。


「あ、そうだ」


 ハルカは何かを思い付き、リュックの中を探る。リュックの中にはハンカチ、化粧品入れ、弁当、水筒、スマホ、財布、筆箱……


「いいもんねぇなぁ……」

 仕方なくノートを取り出すと、4、5枚程ページを破り取りクシャクシャと丸める。

 力を込めて丸める。


「よし、いくぞ〜えいっ!」

 ノートの切れ端を丸めたボールを、空に向かって投げる。


 が、やはり素人の女の子。力一杯投げたつもりだったが、頭の上1メートル程で、むなしく空を舞った。

 もちろん、ボールが天井をかする事も無かった。


「まぁ、いっか。よし、次!」


 ハルカは壁の前まで近付き、と思えば少し離れた後、勢いを付けてケリを入れる。

「ヨイショぉ!」


 どうやら虱潰しらみつぶしに、壁の脆いところを探すつもりらしい。


「オラァ!」

 いいケリが入ったつもりだったが、虚しく壁に返される。


「クソ野郎!」

 ただそれでも力が入る。


「なんなんだよぉ」

 少し疲れたので張り手に変わる。手で触れるとさらに分かりやすいが、壁は石の様に重い。


「あぁー、だるい」


 半分を過ぎたところで、力尽きて仰向けに倒れ込んでしまった。

 気分はラスト5秒で逆転スリーポイントを決め、疲れて倒れこむバスケ部のエースだ。








「はぁ、はぁ……やっぱりダメかぁ」


 ハルカはその場で再び倒れこんだ。

 縦横全ての壁を叩いてみた(主に蹴りだが)が、ビクリともしない。この白い密室の出口を見つけることは出来なかった。


「しゃーない。SNSでみんなに助けを求めるしかないかー」


 乱暴に投げ捨てられたリュックから、スマホを取り出す。

 電池残量は40%ある様だ。


「ちょw、ヤバタノオロチなんですけどwww 圏外じゃんwww」

 無残にもスマホの右上には『圏外』の文字。やはり電波が届かないらしい。


「いや、逆にwifi飛んでるんじゃね?」

 設定画面から入ってみるが、勿論『見つかりません』の文字。


「……」

 無言で写真フォルダーを開く。友達との自撮りや、オシャレなスポット、料理。楽しかった思い出が蘇る。


 ハルカは”スマホ依存症”と言う現代病に悩まされる女子高生だ。

 スマホの回線が不安定な時は、仕方なく写真フォルダーを漁るクセが出てしまう。

 もはや潜在意識として自然とその行動に移っていた。


「あ、電池やばいンゴ」

 その後数分経過して、電池画面が黄色くなった。

 慌ててスマホを置く。


 私は何をしているんだろうか……



 ハルカは空虚くうきょな表情で天井を見つめる。

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