25話 撃鉄
グリードは俺が振りおろした新しい大剣【撃鉄】の一撃を、両手に持った二本の大鉈を重ねて受け止めた。
俺の新しい武器と、本気の覚悟、その一撃は以前より格段に強くなっているはずだが、グリードは受け止めた瞬間も表情を動かすことなく、奴の想定を上回ることが出来なかった様だ。
でも……
「両手、使ったな」
「はあ?」
こいつはあの時、俺の攻撃を片手で受け止めやがった。
馬鹿にしやがった。
それがどうだ。俺の一撃を受け止めるのにこいつは両腕を使った。
「なに満足そうな顔してんだっ!」
顔に出てたか。
撃鉄を受け止める大鉈の圧が増したかと思うと、撃鉄が俺の体ごと弾かれた。
武器の差は縮まっても膂力の差はまだまだあるらしい。
俺は押し込まれる力に逆らわず、ステップするように俺は後ろに数歩下がると、グリードは追撃を仕掛けてきた。
俺は撃鉄を立てるようにして構え、柄を引っ張る。するとガチリと撃鉄の柄が伸び、大剣に沿わせるように入ったスリットに沿って、円形の鉄の塊が重力に従って落ちていく。
スリットの最下部、つまり手元側まで落ち、手に衝撃が来るのと同時に延ばしていた柄を手放すと、柄が元の長さに戻り、鉄の塊が固定される。
重い鉄の塊が、手元に近いところで固定されたことで重心が手元に近い場所で固定され、撃鉄の小回りが格段に良くなったのがわかる。
後退する数歩の間に、次の攻撃の準備をする俺に対し、あの時のようにグリードがハサミのように大鉈を左右に広げ、俺を真っ二つにしようとしてきた。
俺は右肩を前にするようにして体を横に向け、撃鉄を逆さにして頭上に持ち上げて刀身で体を隠すようにする。
そして一歩、グリードの攻撃が命中する瞬間に前進する。
「受けたぞ」
俺の体の分厚さよりなお広い撃鉄の刀身は、左右から挟み込んできた大鉈から俺の体を完全に隠しきって受け止めた。
力で負けているが、黒鋼で出来た撃鉄の刀身を潰して俺の体に到達する程の膂力は流石にない。
気を付けるとしたら先端がかぎづめ状になっているため、切っ先が撃鉄を回り込んでいるという事だ。
鉤爪をさけるために後退すればグリードはさらに踏み込んでくるだけ、そのため命中する瞬間、一歩前進して鉤爪が俺の後ろにくるように調整した。
「だから?」
グリードは大鉈を引き、俺の背中側にある鉤爪で背中を斬る。という動作をしようとしているのが見えた。
肩が、支えるための足が、前ではなく後ろへ力を入れるために動いているのだ。
両脇は大鉈により塞がっている。
まだ予備動作でどれほどこの攻撃に力を入れてくるかはわからないが、こいつの事だから皮鎧の上から致命傷を与えられる程度の力は込めてくるはず。
想定内だ。
俺は体を横に向け、撃鉄を片手で支えたまま、あらかじめ抜いていた剣をグリードへ向けて突き放った。
「っぶねぇなあ!」
俺はグリードから撃鉄の刀身で全身を隠すのと同時に、腰に差してあった剣を抜いてあった。
俺はこの剣を撃鉄の中央に走るスリットの間に通すことで、防御を解除せずに攻撃を可能にした。
この武器をリタと一緒に考案した時から考えていた戦法の一つだ。
だから、想定内。
だが想定外のはずのグリードには体をのけぞらせることで避けられた。
後退がてら俺の背中を、大鉈の鉤爪で引っ掻いていったが、皮鎧を浅く傷つけるくらいで俺は無傷だ。
でもグリードの重心が後ろに寄った。攻守交代だ。
俺は剣を手放し、切っ先を地面につけていた撃鉄をグリードの腹目掛けて振りあげるが、グリードは左手の大鉈で受け止めてくる。が、俺は歯を食いしばり、そのまま渾身の力で振り切った。
突然出した全力の一撃、目が一瞬カッと明滅し筋肉が熱くなる。
グリードは片手で受けたため、たたらを踏んで更に後退した。
俺はすぐに剣を引き戻して撃鉄を頭上に持ち上げながら柄を引っ張り、鉄塊のロックを解除、二本の大鉈を掲げて受けようとするグリードに真正面から振り下ろした。
「ぐっ!!」
グリードは両手の大鉈を交差させるように掲げ、俺の撃鉄を受け止めた。
その瞬間グリードがうめき声をあげたのを俺は聞き逃さなかった。
今度は想定を上回れたようだ。
俺は今、撃鉄の柄を引いてロックを解除した鉄の塊が遠心力により切っ先の方に移動することで威力をあげた。
ハンマー投げだとか、てこの原理とか、モーメントとかそんな感じの原理だ。
この現象が俺にはどの原理のことなのか、というかそれって違うのかとかもわからないが、なんせ長くして先端に重いものをつけた方が威力が増すという事だ。
重さを変化させることで俺が本来使える重さ以上の重さを使いこなすことが出来る。
俺はこの鉄の塊を【心鉄】と呼んでいる。
理由はカッコいいからだ。それ以上でもそれ以下でもない。
俺は振り下ろした撃鉄を直ぐに引き戻しながら再び柄を引くと、心鉄のロックが解放される。
心鉄が手元に移動したため右脇に構えなおすまでの時間は、わずかだが短縮されている。
俺は絵をそのまま戻すことなく、横なぎに撃鉄を振ると心鉄が先端までスリットを移動する。
遠心力が増した俺の攻撃にグリードは両手の大鉈を縦にして受け止めると、グリードの足が地面を滑った。
俺は柄を引くと、また心鉄のストッパーを開放すると柄の方に向かって心鉄が落ちて、手元の方でぶつかる。
ズンと手首に衝撃が発生するが、同時に衝撃を利用するようにして撃鉄を引き戻し、手首を返すようにして逆袈裟斬りを放った。
道具と歯重心を中心に回すようにすると、より少ない力で無理なく動かすことが出来る。
心鉄を手元側に固定することで取り回しをよくし、二刀流であるグリードの手数に対抗するのが目的だ。
「ちっ!」
(お前の想像の範囲内だろうな)
グリードの右腕が分厚い皮鎧の上からわかるくらい盛り上がる。
今度はグリードが右手の大鉈のみで俺の攻撃を受け止めてきたのだ。
何度か俺の攻撃を受けて片手で受けるための力加減がわかったようだ。
グリードはすかさず残った左手の大鉈で、がら空きとなった俺の右腹を狙い大鉈を振るおうとする。
(受ける瞬間まではな)
だが、グリードが撃鉄を受け止めた一瞬あと、ほんの僅かに遅れてガチンと金属がぶつかる音が爆発した。
グリードが止めていた撃鉄が、そのいけ好かない顔に触れるギリギリまで押し込まれる。
重たい金属塊である心鉄が剣を振った遠心力でスライドし、先端の方にぶつかった事で衝撃を生んだのだ。
予想外のタイミングで衝撃が来たことで戸惑ったのだろう。
まあ、構造は外目にでもわかるのでわかってても初めての感覚に戸惑っただけなのかもしれないが。
俺は再びグリードが左手の大鉈を動かす前に、軸足である左足を踏みしめ、撃鉄を引き戻しながらその腹を蹴り飛ばす。
足裏に感じたのは確かな重み、グリードは間違いなく避けることなく、俺の蹴りを腹に受けたはずだ。
この世界の男特有の筋力に比して軽すぎる体重のグリードは、俺の蹴りで数メートル吹き飛び、雪面に筋を残しながら着地した。
その顔は苦痛に歪んでおり、俺の攻撃が通ったことがわかる。
勝負所だ。
そう思った全力の蹴りだしをすることで、たった一歩で数メートルの距離を詰め、撃鉄を持ち上げ、柄を引きながら振り下ろした。
痛みでグリードの動きは鈍くなっているはず。
間合いは両手武器である俺の方が間違いなく長い。
そのため俺の攻撃が一方的にあたる位置のため、反撃は考えず、最速=最強の一撃を加えることに集中する。
俺の全身のマナもここが勝負所だとわかってくれ、ここ一番の輝きで俺の筋肉を動かしてくれる。
「まあ、大体わかったわ」
俺のグリードの頭を真っ二つにするはずだった撃鉄は、地面に埋まっていた。
手に雪の下の地面を叩いた衝撃が返ってきて手がしびれる。
同時に俺の右頬に衝撃が走った。
ほんの一瞬遅れて腹を電信柱で殴られたかのような衝撃が襲う。
「がっ……は……」
なすすべなく俺は雪面を転がり、ギュッと内臓が絞られるような痛みに目を白黒させる。
それでもなんとか俺はすぐに立ち上がると、グリードが突き出していた足をゆっくりと下すところだった。
グリードは俺の撃鉄の一撃を、重い両手の大鉈を手放し身軽になることで、立ち上がりながら紙一重で避けていた。
俺のそばで立ち上がったグリードは撃鉄を地面に叩き込んでいる俺の頬を、右フックで殴り飛ばし、さっきの仕返しをするように俺の腹に左足で蹴りを入れてきたのだ。
「たく……痛てぇじゃねぇか」
「……嘘つけ」
腹をさするグリードに俺は息も絶え絶えに悪態をつく。
どうやら俺はこの男に勝てないらしい。
ここまでは俺の変わった機構の武器による攻撃での奇襲であった。
だからグリードは虚を突かれ、実力が下のはずの俺に対してここまで苦戦し、あまり効いていないようだが一撃をくらわすことができた。
正攻法で行くのなら、俺は多分もう負けている。
悔しいが、これまでの打ち合いでそれが分かった。
グリードが言った「わかった」とは、撃鉄による攻撃を見切ったという事だろう。
この勘のいい男には、もうこの武器を使った奇襲は通用しない。
だからこの勝負、俺の負けだ。
「ミナト、合わせるぞ」
「ああ」
俺だけでは勝てない。
撃鉄だけでは勝てない。
だからここからは
「第三ラウンドだ」
二対一だ。
いいよな?
あの時いいって言ったもんな。
俺はタロウと並んでグリードに向き合った。
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こちらの新作もよろしくお願いします。
VTuberとヴァンパイア~猟奇で陽気なヴァンパイア~
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