3話 アナンの村のリタ
サンの村を出発して5日目、俺達はアナンの村に到着した。
村は山の斜面に存在し、段々畑のように山を切り開いて家が建てられている。
この村は非常に頑丈な黒鋼という金属がよく取れるため優秀な鍛冶師が多く集まっているらしい。
鍛冶屋に寄る前に先ずは宿をとって荷物を部屋に置く。
武器を一から作ってもらうとなると日を要するためしばらくはここに滞在する予定だ。
ちなみに今日も部屋の数は二部屋だ。
三人娘はまた別の鍛冶屋の元へ向かうようで一旦分かれて鍛冶屋に向かう。
ジークに案内された鍛冶屋はアンジの大剣を打った所らしく、ここなら間違いないとのこと。
「もし実力が足りないと判断されたら断られる事もあるから気をつけてね。」
「そんな漫画みたいな人が……」
「まんが?」
「物語の中の人ってことです。」
扉を開けて鍛冶屋の中に入ると様々な武器が並べられている。
扉の開いた音を聞きつけたのか奥から一人の男が現れた。
その男は白いひげをたっぷり蓄えていて、体は筋骨隆々で非常に鍛えられている。
背は低く頭は禿げていてまるでドワーフだなと思った。
「おう、ジークか。」
「こんにちは、ガリアさん。紹介します。彼はミナト、新しい戦士になる予定の男です。」
「ミナトです。今日は俺の武器を作るお願いをしに来ました。」
「ほう。」
ガリアは俺の事をじろじろと観察してくる。
どうやら俺はガリアに値踏みされているようだ、俺はお眼鏡に叶うのかと緊張しながら視線に耐える。
するとガリアが指をさして口を開いた。
「そこの剣を順番に振ってみろ。」
ガリアが指差した先には大きさの違う3つの黒い大剣が立てかけられている。
俺は言われた通り大剣に近づき、一番小さい物を手に取った。
小さいとは言っても普段使っている剣より大きく、肉厚だ。およそ10kgはあるだろう。
もはや地球人が扱える重さではない。
刃は研がれておらず、もしかしたら試しに持って見るためのものかもしれない。
俺は剣を握ると構えてみる。
(これならいける。)
たしかに今までの剣より重いが、今の俺なら扱えそうだ。
大剣を上段から真っ直ぐ振り下ろして地面ぎりぎりでピタッと止める。
「よし、次だ。」
俺は次の一回り大きい大剣を手に取る。
(お、丁度いいかも。)
大剣を振ってみると重さはあるものの扱えないほどではない。
重さは20kgほどだろうか。
縦に振った大剣を止めて切り上げる。そこから真横に持ってきて横に振る。
大剣の重量で体が振られそうになるが体幹で押さえつける。
「次だ。」
(重い……。)
重量は40kgくらいだ。
かなりの重量を感じる。
振り上げただけで体が振られてしまいそうになる。
もしこの大剣を振り下ろすと慣性を止める事が出来ず、床にしたたかにぶつけてしまう事だろう。
俺の力ではこの体剣を振るうと体幹が支えきれずに軸がぶれてしまうはずだ。なら、体を投げ出して大剣との重心の位置をつじつま合わせしてみることにする。
俺は体を投げ出して大剣を振り回し、遠心力を利用して横に振る。
ぶおん!っと重い風斬り音を鳴らしながら振られる大剣に、俺は無理やり止めようとせずに一回転してなんとかとまる。
「こんな感じです。」
「ちと非力だが、まあなんとかなるだろう。」
「よかったじゃないかミナト、武器を作ってくれそうで。」
どうやら彼のお眼鏡にぎりぎり叶ったようだ。
俺はほっと息をはいて安心する。
「お前何歳だ?」
「もう少しで16歳になります。」
「なるほどな……。」
ガリアに年齢を聞かれたので素直に答える。
深く考えなかったが何か意味があるのだろうか。
ガリアは指を顎に当て何か考えている。
「支払い方法はどうする?」
「この子を好きに働かせていいですよ。戦士の試練を受けさせる程度には使えるはずですから。」
「え?!」
「当然じゃないか。武器は高いんだよ?自分の相棒の分くらい自分で稼がなきゃ。ある程度不足分は出してあげるけどね。」
初耳だった。たしかに宿代から食費までお世話になった上に武器まで買ってもらえるなんていいのかな?とは思っていた。
勿論働く事に不満はない。だけどせめて一言あって欲しかった……。
「そうですね。自分が甘かったです。ガリアさん俺、何でも働きますんで武器を作ってください。お願いします。」
気を取り直して俺はガリアさんにお願いする。金を払わずに作ってもらおうとしてるんだ。せめて誠意だけでも伝えようと頭を下げる。
「ジーク、またかよ。お前らの村の戦士はなんでこんなに金を払おうとしねぇんだ。」
「その分包丁とか半分くらいの狩猟衆の武器とか頼んでるじゃないですか。」
「足りないんだよ。男の武器作んのは重いし材料めちゃくちゃいるし大変なんだぞ……。」
「じゃあミナトがいるから少し楽になりますね。大丈夫です。少しは払いますから少しは。」
「ちっしょうがねぇな…おいミナトっていったか今日からこき使ってやるから覚悟しとけよ。」
話が進んでしまった。これはおじいちゃんから聞いた話だけど、日本でもお金の代わりに働いて高い物買ったりする文化があったらしい。現代っ子の俺にはない感覚だ。
昔の日本のようにコンプライアンスという言葉がないこの世界においてもそこまで珍しい事ではないのかもしれない。
「さて、どんな武器を作るかだが剣でいいのか?」
「はい、そのつもりです。」
俺はこの世界にきてから剣と槍と弓を訓練してきたが特に剣に力を入れていた。
ケシャの腕を切り落としたアンジの一撃が俺の心に強烈に焼き付いていたからだ。
俺もアンジのようになれるかもしれない。その一心で剣の腕を磨いてきた。
ようやく俺もアンジのような力強い攻撃をするための剣を手に入れることができる。
ケシャの腕を一撃で切り落とす自分の姿に思いを馳せていると出口の扉が開いて誰かが入ってきた。
「ただいま〜。」
「おう、リタいいところに帰ってきた、いい機会だ。こいつの剣の設計をどうするかお前が考えろ。」
リタと呼ばれた扉から現れたのはツナギを来た少女だった。
長い髪を乱雑に後ろでくくっており、首にはゴーグルがかけてある。
気の強そうな印象を受ける顔立ちで多分革ジャンとかタンクトップとか似合いそうなタイプだ。
歳は恐らく俺とそこまで変わらないだろう。
どうやら俺のための剣を作る相談に乗ってくれるようだ。
「俺はミナトといいます。サンの村の戦士になるための武器を作ってもらいに来ました。よろしくお願いします。」
「うおっ…びっくりした男か…あたいはリタ。ガリアの娘で鍛冶師見習いだ。よろしくな。」
やはりガリアの娘だったようだ。
リタは俺が男の客だと知って少しびっくりしたようだが、特に取り乱すことなく話してくる。
話し方からして見た目通りの男勝りな女性のようだ。
「親父、こいつの武器は大剣でいいのか?」
「そうだ、そこにある大剣を扱える程度には鍛えてるみたいだ。」
「へぇあれを持ち上げたんだ、戦士目指してるだけはあるわけだ。ついてきな。」
リタに連れられて外に出る。
ちなみにジークは用事はもう済んだと先に帰った。
案内されたのは家の真横にある柵にかこまれた庭でカカシや的が置かれている。
庭に面している家の壁立て掛けられているのは剣のような見た目をしているが、刃がついていない。
その剣もどきは刀身に細長い穴が開けられていてその穴を通すように金属の塊が取り付けられている。
「今から剣の重心が何処にあるのがあんたにとって使いやすいか調べる。」
リタはそう言うと剣もどきに取り付けられた金属の塊の位置をスライドさせて一番根本の方にする。
金属塊を上から紐で縛り付けて固定させると俺に持つよう促す。
「じゃあ好きなように振ってみてくれ。」
俺は言われたように好きなように振ってみる。
重心の位置が手元に来ているので取り回しはしやすい。
重量が20kgはありそうなので決して楽ではないが体が流されることなく振るうことができた。
「もういいよ。」
一通り振っているとリタから静止の声が聞こえる。
再びリタの手に渡った剣もどきは金属塊を一番先端にスライドさせて括りつけられた。
剣もどきを降ってみると重心が先端によったため全く別の武器に変わったような印象を受ける。
取り回しは圧倒的にし辛くなったが、より遠心力が働き、一撃の威力がかなり上がったように感じる。
剣もどきの行きたい方向に逆らわずに少し力の方向を変えてやるのが上手く扱うコツだ。
「どっちのほうが好き?」
「うーんどちらかというと後のほうが好きですかね。」
「じゃあこれは?」
俺の答えを聞いたリタは次は先端から少しだけ根本側に重りをずらして俺に渡してきた。
俺はそれを受け取り振ってみて感想を答える。
こういう風に徐々に重心の位置を変えたり重りの量を増やしたりして俺の好みの重心位置を探っていく。
そうして何度も修正を繰り返してついに丁度いい位置を探り当てた。
リタはその位置を剣もどきにメジャーを当ててクリップボードに取り付けられた紙に記録する。
「こんなもんかな。あんたの事が大体分かったよ。」
「ありがとうございました。いつもこんなふうにして武器を作っているんですか?」
「悔しいけどこの重さは女には扱えねぇからな。男なんて滅多に来ないし数えるくらいしか使った事がねぇよ。」
「あまり使わないのによく用意してましたね。おかげで自分の癖とかがよく分かりましたよ。」
「そうだろ?あたいが考えて作ったんだ。」
この剣もどきはリタが作ったらしい。
中々発想力に優れた女性のようだ。
こういう新しい発想ができる人が人類の技術を進化させるのだろう。
「本当に凄いです。こういうより良い物を作るための発想ができるなんてリタさんは凄い鍛冶屋なんですね。」
「お…おう、なんかそこまで褒められると照れくさいな……親父には怒られてばっかだしそんな凄くねえよ……。」
リタは俺の言葉に恥ずかしそうに頭をかきながら目をそらす。
なんだろうこの可愛いい生き物は。
男勝りな女の子が褒められて恥ずかしそうにしているのを見ると、なんだかもっと意地悪したくなってきた。
「そんなことないですよ。凄い丁寧に俺のふわっとした感覚的な感想をしっかり言語化してくれて、自分の事を見つめ直すことができました。こんな優秀なんですからきっとガリアさんもリタさんの事褒めてますよ。」
「そ、そんなこと……。」
「真摯にモノづくりと向き合ってる女性はカッコいいと思います!」
「う……と、兎に角!もう調べたい事は終わったから戻るぞ!」
俺の褒め殺しをリタは顔を真っ赤にさせながら終わらせに来た。
どうも褒められなれてないようだ。
足早に家に戻る彼女は腕を口に当てている。
恐らくニヤケ顔を隠しているのだろう。
なんだか見てるとほっこりする。
リタを追いかけて店に戻るとガリアがリタの様子を見ると俺の方を向いてニヤリと嫌な笑いをした。
何か勘違いさせてしまったんだろうか。
「終わったようだな。まだ今日この村についたばっかのようだし働くのは明日からにしよう。どうやらリタと仲良くなれたみたいだしリタに村を案内してもらえ。」
「え、そんなの悪いですよ。」
「仕事させんのに村の事を知ってたほうが都合いいんだよ。分かったら行け。」
「そういうことでしたら……リタさんお願いできますか?」
「…おう。」
リタと俺をくっつけようとする意思を感じるが、取り敢えずは村を案内してもらう事にする。
ジークさんも三人娘もいない今村を案内してもらえるのでは非常に助かる。
「リタのことが気に入ったんなら貰ってやってくれ。こいつ中々相手を決めやがらねぇんだ。」
「親父!な…なにいってんだよ!そ…そんな事言ったらミナトが困んだろうが……」
やっぱりガリアは勘違いしていたようだ。
だけどリタさんなんで満更でもない感じを出してるんですか?まだ合って1時間くらいですよ?少し褒めたくらいでチョロすぎませんか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます