私のこと、忘れないでね
帰り際、袖口をそっと掴む。
「どうしたの?」
君はいつも見たく笑ってこっちを見る。でも、私は上手く笑えずに下を向いた。
「あのね、」
精一杯の作り笑いで君を見る。ああ、夕日が眩しいな。空が幸せそうなオレンジに染まる。
「私の事、忘れないでね。」
頬に一筋、光がつたう。足元で黒い影が嗤う。
君は気づかない。私の指先が光に溶けていくのを。でも、それでもいい。
君は気づかない。私のことを忘れてしまうから。これは決められたことだから。
だから、こんなこと言っても無駄なのは知っている。それでも、だ。
君に私を覚えていて欲しかったんだ。
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